バンクーバー在住6年目、世界を股にかけるフリーターちひろうさぎの日記と映画レビュー。

2012/01/11

Cinema Review: 『哀しき獣』


『哀しき獣』(2010) 公式サイト imdb 予告編

2011/1/11 最近ではシアターN渋谷と並んでよく行く映画館となったシネマート新宿スクリーン1にて遅ればせながら映画初め。日本にいる間にどうしても観ておきたかった作品。カナダでも上映してるかもしれないけど、韓国語(+中国語)音声、英語字幕には自信がなくてね。


【あらすじ】
北朝鮮とロシアに接する中国領、延辺朝鮮族自治州。人口の約40%が朝鮮族、すなわち韓国系中国人である。出稼ぎのために非合法的、または合法的に韓国へ渡る者もいる。多額の借金を負った主人公グナムは、タクシー運転手をしながら賭博で一発逆転を狙う。妻は幼い娘をグナム母に預け、韓国へ出稼ぎに行ったきり金も連絡もよこさない。彼女の身に何かが起こったのかもしれないし、あるいは家族を捨て韓国で新しい生活を見つけたのかもしれなかった。首が回らないグナムは請け負い殺人という藁をもつかむ。雇い主はミョン氏。報酬の他、韓国までの船や寝床、当面の生活費すべて手配するかわりにある男の親指を持ってこいという。「ついでに行方不明の嫁も探してきたらどうなんだ。」グナムは生活のため、そして妻を探すために黄海を渡るが…


【感想】
バイオレンス、セックス、そしてメシ!いい顔のオッサン、警察が無能、主人公と悪役が異様に強く、しぶとい、どいつもこいつもヤクザ、突然挿入されるユーモア、(あと高確率でゲロ、)などなど、韓国映画とは韓国映画であるというだけですでにネタバレしている感があるが、一応以下ネタバレなしのつもりでお話します。


突然「親指とってこい」と命じられすぐに動ける狂犬にもかかわらず、グナムという男は憎めない。(そういえば狂犬病の話はどこにつながるの?ミョンさん犬市場にいたけど…)家族に対する責任感が強く、タクシー運転手としての働きぶりなんか真面目そのものだし、基本的に実直な男なのだということが物語の冒頭で明かされる。観客はこの不幸な男がどうにか少しマシなところへ行けるといいと願うんだけど、残念ながら彼が行動を起こすたびに悪い予感しかしない。その予感は的中し、グナムはハメられて、ハメられて、どんどん落ちてかわいそうになっていくんだけど、それでももう意地になって食らいついていく。生きるってこんなにツライことなのかしらん…。韓国の冬はなにしろ寒いので、ますますかわいそう。主人公の唇が終始カッサカサで青白いところが泣ける。
しかしグナムが表情が乏しかったというか、全体的に役者の顔をもっと見せたほうがよかった気がする。たとえば『悪魔を見た』はさすがにちょっと過剰だったけど、血まみれ殺人描写より役者の表情がよっぽどこわかったもの。


いっぽう不法労働者ビジネスを一手にさばいているミョン氏は、逆にあまり表情がわからないところがよかった。腹肉もユルい普通のおっちゃんなんだけど、強い。強すぎる。見た目も普通なら中身も普通の面倒見のいいおっちゃん風なので妙に慕われてたりするんだけど、表情ひとつ変えずに尻でも掻きながら淡々と人を殺しまくる鬼なの。骨で撲殺には笑っちゃったけど。それにしても韓国映画ってよくごはん食べてるよね。重要な取引でも、宿敵との対峙でも、人を殺しても、まずはメシ。腹が減っては戦はできぬからな。「パンモクチャ(メシ食ったか)?」は韓国語では「ハウアーユー」的に使うらしいです。


ミョンさんの他にも次から次へと悪いやつがでてきて、そのたびにボッコボコにしたりされたりしながら物語は進みます。目が合ったら次のカットでは血まみれ、死にかけ。これ基本。で、出たー!韓国映画名物ビニール袋リンチ!後片付けが簡単なので大きなビニール袋にくるんでリンチするの。ああ、おそろしい。暴力描写は「ああ、『チェイサー』の人だなあ」ってかんじ。グシャった瞬間、一瞬白黒?セピア?になるカットは好みが分かれそうですね。『チェイサー』のときは効果的だと思ったんだけど。それより、さっきの骨で戦うところとか、グナムが最初に殺人のイメトレするところとか、緊迫した状況にフっと「抜け」をつくるところは本当に見事です。アクションやカーアクションは瞬き禁止のチカチカ編集だけどわたしとしては満足でした。緊迫と混乱が伝わってきた。車がじゃんじゃん壊れるのは愉快痛快だ。


原題は『黄海』といって、これが観終わった後考えるとズーンと響いてくるのですが、まあ『哀しき獣』のほうがソソられるタイトルではあるので仕方ない。この映画を観るまで朝鮮族の存在を知らなかったという人がほとんどなんじゃないでしょうか。こうして国境で戦っている人間は世界のあちこちにいるのでしょうね。






【最後にネタバレ】
グナムと教授嫁との関係、教授妻と銀行員の関係、終盤の銀行の場面がいまいち消化できませんでした。けっこう肝心なところだと思うので残念。もう一回観たい。
どいつもこいつも悪者で、頭がこんがらがった。結局誰が悪かったのか?それは妻を信じることができなかったグナムでしょうか。それにしても寝取られの恨みはおそろしいでー。


【追記】
他の方のブログを読んでみたら、やはりあの教授妻と銀行員の関係、そして本当の黒幕は誰か?といった数々の謎は映画の中で明かされておらず、どうやら「ここは自分で考え、議論しろ」という宿題部分のようです。みんなはどう思う?