バンクーバー在住6年目、世界を股にかけるフリーターちひろうさぎの日記と映画レビュー。

2015/11/25

Dear Rookies この世界で一番大切なのはきみ自身

母親が出版社の集まる神保町でバイトしていたので、よくゴミ捨て場でVogue NipponELLE Japonを拾ってきた。ときどきは空白のページやゲラが混ざっていたりもした。もともとオマセだったわたしは10代前半かその前からずっとこうしたハイファッション誌の愛読者だった。世界の街角のファッションスナップはお気に入りのコーナーで、ショーの合間のスーパーモデルやファッションエディターに混じってタヴィちゃんという少女を発見するたびに、こんな華やかな世界に身を置くおチビちゃんがいるなんて世界は広いや、とため息をついたものだ。当時の彼女の肩書きは<ブロガー>。彼女がStyle Rookieというブログを立ち上げたのは弱冠11歳の時(2008年)。わたしの実家にパソコンが来たのは18歳(2006年)くらいの時で、当時はmixi以外のウェブサイトにアクセスすることがほぼなかったので、彼女がどんなブログを書いているのか知らなかった。

わたしが知ってる謎のオシャレ子供タヴィちゃん

そのタヴィちゃんが大きくなって(でもまだ19歳)、いまアメリカで最も影響力のある文化人の一人になっていたなんてお恥ずかしながら『ヤング・アダルトUSA』を読むまで知らなかった。

こんなに大人になった!女優としてもめきめき実力をつけているらしい

ちょうどRookie Yearbook 4が発売されたところだったのですぐに注文。Rookie Yearbookとは、彼女が主宰するウェブサイトRookieに載った記事の傑作選に書き下ろし記事を加え毎年秋に書籍で出しているものだ。フルカラーのワイド版で手にとってみるとずっしり重く、まさに「おもちゃ箱をひっくり返したような」色彩の洪水のなかに膨大なテキストが詰まっている。ティーンによるティーンのための同ウェブサイトが扱うトピックは「Action」「Work」「Dedication」といった月ごとの大テーマに沿い、ティーンらしくカワイイものへの礼賛は基本としながら、DIYや痴漢撃退法や宿題のヒントといった実用的なもの、さらにジェンダー、差別、暴力といった社会問題など幅広い。実体験を交えた考察は手探りながらも力強く、まさに「個人的なことは政治的なこと」だ。それがあくまで楽しく、アートワークや記事に合わせて聴きたいプレイリストとリンクしている。ティーン特派員の取材による各界および各世代を代表する豪華ゲストの特別講義もある。編集委員長のタヴィちゃんを筆頭にほとんどのクリエイター陣が若い女の子なのでどうしてもフェミニズム色を帯びるが、もちろん男性もウェルカムだ。たとえばAsk a grown manのコーナー。16歳と13歳の娘を持つジャド・アパトウがティーンのお悩みに回答。




「自分を変えることなんてできない。変わったつもりでも、それは無理をしている自分でしかないんだ。君は君のままでパーフェクト、変わらなくたっていい。変えるんじゃなくて、上げるんだ」

彼が参照している70年代のこども番組のテーマソングはこれ。



The most important person in the whole wide world is you and you hardly even know you
(この広い世界で一番大切なのは君自身、君はそんな大切な自分のことをよく知らないみたい)
The most important person in the whole wide world is you come on we’ll show you
(この広い世界で一番大切なのは君自身、おいで、見せてあげるよ)
It’s all about the things you feel and do, because you’re the most important person in the world to you
(全ては君がどう感じ何をするかなんだ、だってこの広い世界で一番大切なのは君なんだから)

「ぼくはみんなと違う、だから孤独だ」「みんなができる事ができないんだ」と泣きわめく毛むくじゃらの異星人に、車椅子やデブや黒人の子供が「逆にみんなはあなたができることができないかもしれない」「自分がみんなのできることしかできなかったらそれはそれでいやじゃない?」「この世界をこんな風に見ることができるのはただ一人わたしだけ(ドヤァ」と語りかけるこの本編もいいなあ。アメリカやカナダの子どもたちは小さい頃からこういう教育を受ける。自信とプライドを持つのはもっとも重要なことだ。セルフ・リスペクトはナルシシズムとは全然違う。

わたしがVogueやELLEについて好きだったことは、豊富なカルチャー記事だった。数百万円のドレスや指輪はもしかしたら一生手に入らなかったとしても、宗教や絵画や本や映画、古いレコード、ほんとうの贅沢とは何かについて考える時間は四畳半アパートの台所にしゃがんだ中学生にも等しく与えられる。一流セレブや旬のモデルのインタビューも刺激的だった。彼女たちは美しいだけではなくて賢く、そして強い。そうでなければ生き残れない世界だ。今もマドンナの言葉を覚えている。「わたしはわたし自身に敬意を払っているから、身体や精神に悪いことはしない」。シンプルで毅然とした美学。でもこんな言葉は日本のティーンには届かない。若い女の子向けの雑誌が喧伝するもっとも価値のあることとはモテること、かわいくなること、痩せることである。小さな顔に二重のお目目、流行りの髪にカモシカ脚…。それを手に入れるためなら犠牲もいとわない。大好きな人に好かれたいのは当たり前。だけど好きでもない漠然としたヒトに好かれるため、社会の承認を得るために自分を変えようとして幸せになれた?自分の好きな服は?髪やメイクは?小説は?音楽は?場所は?自分はどうなの?10代はあまりに短く、世界から愛されることに腐心していたらロクな大人になれたもんじゃない。You're what you love. 自分を自分たらしめているのは、自分が何を愛しているかだ。自分の好きなものを愛そう。自分を愛そう。自分の人生は自分のもので、誰のものでもない。誰にも渡しちゃいけない。繰り返しそう説くRookieに出会えた現代のティーンたちはほんとうに恵まれているな。Webマガジンだから無料で、インターネットの接続さえあればどこの誰でも今すぐアクセスできる。Rookieはウェブサイトであり、コミュニティであり、社会現象である。そんな一大プロジェクトを10代の女の子たちが作ってしまうなんてすごいや。女の子は世界を変える!ガールズパワー万歳!…と言ったら恋人は「まるで男の子にはできないみたいな言い方だね」と不満気だったけれど。

RookieYearbookの第一号がこの度ついに日本語に翻訳されたらしい。尊敬する乙女ライターの山崎まどかさん@romanticaugogoの呼びかけで、若い世代のインターンが翻訳に関わったそうだ。これをきっかけに日本にもRookie的な運動が起きて、未来を変えてしまえばいい。