バンクーバー在住6年目、世界を股にかけるフリーターちひろうさぎの日記と映画レビュー。

2013/04/01

Girls: A voice of A generation


クリスマスにもらったHBOドラマ GIRLS シーズン1のDVDを繰り返し見ている。現代のアメリカンコメディ界でもっとも力を持っていると言われるジャド・アパトウが製作総指揮、彼のもとで監督・脚本・主演を一手にこなすのは生粋のNYっ子で弱冠25歳のレナ・ダナム。本作でエミー賞ノミネート、ゴールデン・グローブ賞テレビドラマ部門主演女優賞獲得、また米TIME誌の「2012年最もクールな人たち」に選ばれるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いの若きカリスマです。

SATCは数話観たけどちょっとわたしには対象年齢が高すぎるし、現実離れしすぎだった。あの4人はルブタンでNYを颯爽と闊歩する、自立したバリバリのキャリアウーマン。一方GIRLSは親に突如仕送り停止を言い渡されたライター志望という名のプータロー、ハンナが主人公。彼女を中心に、それぞれタイプの異なった20代半ばのgirlsが路頭に迷う様子をかっこ悪く描く。20歳でもなく、28歳でもなく、24歳のリアルタイムのリアルが詰まってる。生まれた時から不景気で、生まれてこのかた好景気を味わったことのない世代。ファッションや恋にかまけてばかりもいられないのだ。

NO, MORE, MONEY!!!!!!
(仕送りは打ち切りよ。ノー・モア・マネー!)

Do you know how crazy the economy is right now?
(昨今の景気状況をご存知?)
I coud be a drug addict. Do you realize how lucky you are?
(ちょっとは手がかかるったって、娘がドラッグ中毒者 じゃないってだけで
どんだけラッキーかわかってる?)

親の世代とは景気が違うんだよね。若者が気合いで独立できる時代じゃないんです。大学を出たって就職は絶望的で、心病みつつ就職したところで結局心を病み2年以内には離職、転職、フリーターへ逆戻り、最悪の場合自殺。こんなに夢のない時代がかつてあっただろうか?これは親世代が逆立ちしたって到底理解できない感覚だと思う。

ハンナは文学部卒でちょっとした文章なんかも書けるんだけどそれだけで食べていけるほどではなく、出版社で2年もインターンしてるのに社員登用を自薦したとたんにクビになってしまう。「見てごらん、あの娘はPhotoshopも使えるよ」なんて言われて。「なによ、みんなして履歴書に『趣味、特技:ヨガ、スペイン語、ウォータースキー、フォトショップ』なんて書いちゃって。どうせあたしにはなんのスキルもないわよ。」必死こいて就活してつまんない会社員になるのなんて最低だし、かといってちょっとクリエイティブな仕事でもしようと思ったらパソコンスキルは大前提。自立しなきゃいけないのは百も承知、しかしなにしろお金がないしお金がないからお金が作れない。バカじゃない(むしろバカがうらやましい)けど抜群の才能やコネがあるわけじゃない。そのくせ「一応大卒」みたいな何の役にも立たないプライドはある。だけどそんなに急かさないで。「I am busy, trying to become who I am(わたしは、わたしが本来の自分になるために大忙しなのよ)!」これがハタチの台詞ならかわいらしいだけだし、28になったらいくらなんでももう少し落ち着いてるかあるいはその頃にはいろんな事を諦めてるかもしれないけれど、これを24歳が言うから絶妙。ついにわたしたちのためのドラマがあらわれた!

「従来のドラマの中の女の子たちっていつも『あんな風に振舞えたらいいのに』、もしくは『あんな振る舞いは最低』のどちらかだったでしょ。『実際のわたしたち女の子がどう振舞うか』について描いている作品はあんまりなかったよね。ドラッグやお酒を試してわけがわからなくなったり、男に振り回されたり、バイトの面接に落ちたり、実際の20代ってけっこう悲惨。自分のことが大嫌いになったりもするし…。girlでもwomanでもないこのひとときはハードではあるけれど、人生の中でもすっごく大事な時期なの」とレナは語る。

(余談だがハンナ=レナはドラマの主演女優としてはかつてないほどにふくよかな体型をしていて、それをボヨンボヨンと惜しげもなく披露するヌードシーンの頻出が話題になった。彼女の上半身を覆うタトゥーは本物で児童文学の挿絵をモチーフにしたもの。タトゥーは不良の証ではなく、レナのような文系ピープルもごく普通に持っているものだ。)

I may be the voice of my generation, or at least , A voice of A generation(わたしはわたしの世代の<声>、代弁者なの。少なくとも、あるひとつの世代のあるひとりの代弁者よ)
ほか3人の代弁者たち:
マーニー: ハンナの親友で同居人。ソーホーのアートギャラリーで働くマトモな人。美人でコンサバ系。長年の恋人チャーリーとは超倦怠期気味。自分勝手で衝動的なハンナに振り回されっぱなし。友達想いな上に正義感が強く、常識人の為説教くさくなることも。 "That isn't fun for me, being the uptight girl. I hate it."

ショシャナ: SATCが大好きな処女で、そのコンプレックスをこじらせている。現役学生。超早口で独自のガールズ哲学をまくしたてる。シーズン2での活躍に期待。
“Everyone’s a dumb whore!!”

ジェッサ: ショシャナのいとこで自由奔放な流浪の民。とにかくモテるが彼氏を作る気は全くない。誰もを魅了するミステリアスなファムファタール。フェミ的な持論はかっこいいがそれは彼女だからこそ許されるところがあり、アドバイスを真に受けないほうがよさそうなタイプ。待ち合わせには必ず大幅に遅刻。“I’m offended by all the ‘supposed to’s.’ I don’t like women telling other women what to do, or how to do it, or when to do it.”

どの娘も「いる、いる!」ってかんじ。たとえば第二話(サブタイトル:Vigina Panic。笑)で4人が婦人科を受診するシーン。自分の堕胎手術をすっぽかしてバーで真昼の情事としけこむ自由人ジェッサ、まるでピクニック気分でお菓子持参の処女ショシャナ。神経質でコンサバな常識人なのに避妊にはとことん無責任でいた事を打ち明けるマーニーと、何事もいい加減なくせに避妊に関しては絶対主義のハンナ。こんな形でキャラクターを規定できるなんて新しすぎる。下ネタは女子会の必須議題だ。この4人が絆を深めあう心温まるエピソードはほとんどなく、むしろぶつかり合い、悪態をつき、お互い「ああはなりたくないよな」とか思いながらもなんとなくよく遊ぶ仲間でいる様子はとてもリアルだ。

大親友のハンナにすら裸を見せないマーニーと、
裸のままバスタブでカップケーキを頬張るハンナ。

何かとSATCと比較されがちな本作だが、個人的にはむしろNY版『ハッピーマニア』だと思っている。ハンナとマーニーのキャラクターや二人の関係なんてシゲタとフクちゃんそっくり。第9話で二人が大喧嘩するシーンは脚本も二人の演技も完璧だった。笑えて、泣けて、自分と親友がもしこんな風に争うことになったらどうしようと思ったら辛くもなる。I like being around people who know what they want(あたしは自分がやりたい事が明確な、ちゃんとした人間といるのが好きなのよ)なんて、親に言われたって痛くも痒くもないけど親友に言われたら泣いちゃうだろうな。このバトルはハンナの「ハッキリ言わせてもらうけど、あたしはあんたの『いいお友達』でいる事になんか構ってらんないのよ。あたしにはもっと重要な事がいっぱいあるんだもの!」の一言で決着がつく。ハンナはその前にも「ダイエットなんか興味ない。もっと重要な事があるんだもん」と言っていたが、本当は「もっと重要な事(bigger concerns)」が何なのかわかっていないのは明白なのだ。最初に紹介したように早熟なレナ・ダナムがこの役を演じるというのはなんとも皮肉な話である。ハンナが漠然と夢見る「自分らしい自分」とは、きっとレナ・ダナムその人なのだから。


物語の主題となるのは20代女子のとっ散らかったマインドなのだが、その要素として恋愛はやはり欠かせない。恋愛、というかなんというか、とにかく男の子との関係だ。ハンナはセフレだか彼氏だかよくわからないアダムと煮え切らない関係。2週間もメールの返事が来ないからもしかして死んだかもと思い家に突撃したら普通に家にいてヒマそうにしてたりして。何しろ彼はおばあちゃんからの仕送りでアーティスト風情を気取っており、ロクデナシの変わり者。最初はハンナが彼を彼氏だと思い込んで痛い目に遭うのだが、後半には形勢が逆転し今度はアダムが深く傷つく事になる。ハンナの暴力的なまでの無神経さにはギクっとしてしまった。わたしもこうして誰かを傷つけたことがあったと思う。異様に自虐的なんだけど、その実自分のことが大好きで自分の事しか考えられないハンナが自分に似すぎていてこわい。

「正解と不正解の二択問題があったとして、ハンナはまるで磁石のように毎回不正解のほうを選ぶの。というか、不正解を選ばなきゃいけないのかも」とレナ談。たしかに彼女はわざとトラブルに突っ込んでいくようなところもあり、こんなところも自分に似ていると思う。だけどこのドラマが全世界の女子の共感を集めているということは多くの女子が「これ、わたしだ!」って思ってるということだから、自分は一人じゃないのだと思える。ファンの数はポテンシャルな親友の数だ。自分が「オレ、最低だ」と思ったときは『ハッピーマニア』を読んで「みんなこんなもんだよ」と心を落ち着かせていたが、最近は目下GIRLSがお友達です。(『ハッピーマニア』はしかし、連載開始から15年の年月を経ても全く色あせない20代女子文化における不朽の名作である。)

第二話まで放送を観てカナダから帰国してしまったが、どうやらシーズン2(完結済)では何もかも順調で自信家だったはずのマーニーが壊れていくという話になるようで目が離せない。4人の友情は?仕事は?恋模様は?心の平安はどこにあるのか?既にシーズン3の製作も決定しているとのことなので、残念ながら、ではなくうれしいことに彼女たちに安らぎなどまだまだ訪れないということだろう。早くイッキ見したあい!