2020/03/19

If The World Was Ending 世界が終わる日には家においで




彼♡は相変わらず連絡をくれない。3日連続でメールして1回電話して、ようやく「いまミュージシャンの友達と一緒にいるから話せないよ。後でね」と短い返事があった。後でっていつよ?彼は映画の道を志してバンクーバーにやってきて、VFXの専門学校を出ている。フルタイムの販売の仕事の合間に取り組んでいたミュージックビデオの制作が今は忙しいのだろう。何も話してくれないけど多分そうに違いない。彼と会うようになって初めて、これまで付き合った恋人たちがいかにわたしを大切にしてくれたか痛感した。吐きそうなくらい不安にさせたりくだらない駆け引きを仕掛けてきた事は決してなかった。彼らに未練はないけど、寝落ちするまで髪をそーっと撫でて見守ってくれたり、ソファでウトウトしている時に布団をかけておでこにキスしてくれたり、スープを作ってくれたり涙を拭いてくれたり、そうやって完全に安心して身を任せられる人が昔はいたのにと思うと胸が痛まないことはない。特にこうした非常事態には。

とかなんとか考えてたら近所のスーパーで直近の元彼にバッタリ遭遇してしまった!こんなことってある?!(良くも悪くも「こんなことってある?!」と驚くような事件がとてもよくある。そういう星の下に生まれたのだろう) 彼とは2年間交際し、半同棲して将来のことも話し合っていたにも関わらず去年の夏一方的に別れて以来着信拒否して一言も喋っていなかった。わたしはいつもこうしてろくにさよならも言わずに最も親密な誰かを「消去」してしまう。一緒に過ごした時間は消えやしないのに。

スーパーの隅のスターバックスはコロナウィルスの影響で持ち帰りのみの営業だったので外に出て少し散歩した。わたしは歩くのが嫌いだけど彼と一緒に花や店や人の家を観察しているとどんどん遠くまで行けて、遠い遠いと文句を言いながらやっと折り返してもおしゃべりは尽きず、またあっという間に家に着いたものだった。

久しぶりに外を歩いたら桜が咲き始めている。こうしている間にもわたしの頭の中は120%好きな人のことでいっぱいなので彼の話だけしかしない。わたしが、わたしの美にも魂にも優しさにもまるで興味を示さない男を夢中で追いかけていると知って元彼はただただ悲しそうに「君と付き合ってる時ぼくも同じような気持ちだったよ」と言った。そういえば「用事も無いのにメールするのやめて」「会うの週に一回で十分だよね?」「Tinder消すつもりはない」とか言ったっけ…。今思えば単に彼のことあんまり好きじゃなかったんだと思う。あと他に好きな子がいた気もする。まあ、今好きな人もつまりそういうことだろうな。どんな道筋を通ってもこの恋はバッドエンドにしかたどり着かない。しかもそれはそう遠くない未来に待っている。彼のビザがもうすぐ切れそうなのだ。解散するのが先か、ビザ切れが先か。どうしても移民したいとのことだが今回のコロナパニックでスポンサーを探すのはほぼ不可能になってしまったので、残された手段はカナダ人か永住権保持者と結婚することくらいだろう。あの、ちなみにわたしはもうすぐカナダ人になる永住権保持者で独身ですけど…。

半分冗談半分本気で「結婚」という言葉を出したところで「それ以上聞きたくない」と元彼からストップがかかった。わたしのことを無条件に愛すると言ってくれた気持ちは今も変わらないという。彼の手を振りほどいてわたしは愛よりも痛みを選んだ。Needとwantは違う。We accept the love we think we deserve =人は自分に相応しいと感じる愛を選んで受け取るという言葉があるけど (『ウォール・フラワー』より)、わたしはきっと元彼の愛情を受け取るに値しない(と信じている)のだろう。これが一過性のものなのか運命なのかはわからない。でも今日明日に変わるものではないことはわかる。このへん英語で考えたことを日本語に訳しているので文章がおかしい、すいません。At this moment I dare to choose pain over love. I know it's insane, but it is valid. There is no right or wrong; my raw emotions are what matter. I'm not sure if this is a phase or fate, but I don't think it's passing anytime soon.

スーパーに戻り買い物の続きをしながら二人だけに通じるジョークを言い合ってゲラゲラ笑っていたら涙が止まらなくなり、空っぽのパスタの棚の隙間でわたしたちは抱き合った。映画のように美しい瞬間。彼はわたしのことをほとんどすべて知っていて、記憶していて、わたしに消去されてもずっとわたしの残像に恋をしていた。というのは彼の言葉を借りているのであって自惚れではないよ。


「最近は筋トレなんかしちゃってムキムキしている」とムキムキポーズをして見せたら、彼は「君のそういう小さい仕草が本当にかわいらしくて大好きだった」と泣きそうな顔で笑った。わたしも同じく、ちっとも愛情を返してくれないあの人の小さな仕草を全て愛おしいと思う。わたしの一挙手一投足を愛してくれる人を目の前にしてもわたしの気持ちはどこか別の場所にあってもう二度とは戻らない。

It was nice seeing you, 近所に住んでるんだからたまには連絡を取り合おうと言って、着信拒否を解除してから離れた。「家に来たらトイレットペーパーもあるよ」。

家に着いてすぐ「この曲聴いてみて。ラジオから流れるたびに君のことを思い出すんだ。ていうか今の状況にピッタリすぎるね」とYouTubeのリンクが送られてきた。


JP Saxe - If the World Was Ending (Official Video) ft. Julia Michaels

I know you know we know you weren't down for forever and it's fine 
I know you know we know we weren't meant for each other and it's fine
But if the world was ending
You'd come over, right?
You'd come over and you'd stay the night
Would you love me for the hell of it?
All our fears would be irrelevant
If the world was ending
You'd come over right?
The sky'd be falling and I'd hold you tight
And there wouldn't be a reason why
We would even have to say goodbye
If the world was ending
You'd come over, right?
Right?

君がぼくとの永遠に興味がないこと分かってたよ、それは別にいいよ
ぼくらは一緒になる運命じゃなかった、それは別にいいよ
だけど世界の終わりの日には家に来るよね?
ぼくの家で一晩過ごすよね?理由もなく愛してくれるよね?
全ての恐怖はもう意味を持たないさ
空が落ちてきたならきつく抱きしめるよ
理由なんかない
さよならを言い合わなくちゃいけなくなったとしても
世界の終わりの日には家に来るよね?


せ…切なすぎる。こんなに切ない歌があっていいものか。この曲がリリースされた去年には仮定法のwould=たとえばもしもの詩だったけど、まさに世界がバラバラになりそうな今聴いたら圧倒的な説得力がある。お互いどうにか納得して別々の道を選んで前に進むことにして平常時はそれでよかったけど、世界が強制終了するとなったら話は別で、もう無理に忘れようとしなくてもいいし憎み合わなくてもいい。いろんなしがらみのせいでもう戻れないあの場所は今もひっそり存在している。あの場所に帰ろうよ、帰っておいでよという歌です。

世界の終わりの日に誰のことを考えるだろう、誰に一番会いたいだろう。何を一番後悔するだろう。元彼が何度もメールを送ってくるので読まずに消去し、また着信拒否設定に戻した。わたしは前にしか進めない。

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