2012/09/03

Freaks and Geeks


日本にいた時からずっと気になってたドラマシリーズ、Freaks and Geeks全18話をついに見終わってしまった。1999年から2000年にかけてアメリカで放映された学園シットコムで、日本でも2002年から2003年にかけて『フリークス学園』のタイトルで日本テレビ深夜枠で放映されていたらしい(出典:wiki)。その後CS日テレプラスで再放送、日本でのソフト化の予定はないそうです。ちなみにUS版DVDボックスは日本のAmazonで購入できます。思ったより安いな。バンクーバー市立図書館でDVDボックス無料で貸し出ししてくれたよ。日本の図書館ももっと映像資料充実してればいいのになあ。一本の映画は、一冊の本と同じように人生を変えるのだから。

制作を手がけるのはあのジャド・アパトーとポール・フェイグ。出演にセス・ローゲン、ジェイソン・シーゲル、ジェームズ・フランコ、そのほかゲストスターとしてベン・スティラー、ジェイソン・シュワルツマン、レスリー・マン(のちのアパトウ嫁)と、現代アメコメ界の最重要人物が一同に顔を揃えています。『BTTF』のビフも出てるよ!体育教師役(笑)。『トランスフォーマー』シリーズのシャイア・ラブーフもクレジットされてるけどどこに出ていたのか見つけられず、後からググったら9話の怪我でマスコット役を下りるあのコでした。ちび「サム」、かわいいー。

一話完結、わずか40分あまりのエピソードごとのクオリティがあまりにも高すぎて恐れ入りました。名作!にもかかわらず同時期に放映された連続ドラマの中ではぶっちぎりのワースト視聴率で結局打ち切り、にもかかわらずいまだカルト的人気を誇る伝説のドラマで、2011年には盛大なreuion(同窓会)イベントも開催された模様。

ちなみにOP曲は『キック・アス』(2010)ヒットガールの襲撃シーンでも使われていたJoan JettのBad Reputation。この曲聞くだけでワクワクしちゃう。ツッパったティーンのアンセム。
♪I don't give a damn 'bout my bad reputation/ You're living in the past it's a new generation/ A girl can do what she wants to do and that's what I'm gonna do ♪

(噂なんか気にしない/ 考え方古いんじゃない?新しい時代だよ/ 女の子は自分がしたいこと、何だってできる/ わたしだってわたしがしたいことをするんだから)


タイトルのFreaksとGeeksはそれぞれ、どのクラスにもいそうな不良グループとオタクグループの事。どちらかといえばGeeksだった主人公リンジー(数学研究会所属)がFreaksとつるむようになり、親や教師、旧友との葛藤を通し「優等生」を演じている自分の本当の居場所を模索する物語。本当に大人が作ったの?って疑うくらいティーンのリアルな感情を掬い取っていて、一瞬であの頃にタイムスリップしてしまう。「子供は気楽でいいよな」なんて、うそ、うそ。よく思い出してみたら子供として生きるほどツラいもんはない。思えば自分もすごく怒っていた。納得いかないことだらけだった。子供の頃って、大人に求める理想が高くて「大人なのにどうしてこんなのこともできないんだろう」「先生のくせになんでこんなこともわからないんだろう」「大人って馬鹿ばっか!」ってよく呆れてた。親や教師になったからって聖人君子になれるわけじゃないのにね。こんな気持ちはすっかり忘れてしまっていた。

このドラマでは思春期の子供たちを取り巻く大人からの目線も実に丁寧に描いている。でも子供から見るとそんな大人たちの奮闘が全部トンチンカンなの笑。たとえば主人公リンジーがちょっと男の子といいかんじになっただけで噂を聞きつけたスクールカウンセラーが避妊のパンフレットを手渡してきたり、親も親で妙なカミングアウトしてきたり。「な、なに言ってんの?!」みたいな。親や教師も昔は子供だったはずなのにどうしてこうなるんだろう。いつのまにかわたしは親や教師の年齢になっていた。どうか愚かな大人たちを許してくれ、子供たちよ。大人だってなかなかつらいんだ。
 
子供の頃は学校だけが国家であり社会だから、学内政治はそれこそ死活問題。運動ができない者は決して人気者にはなれないというのは日本もアメリカも同じなのね。個人的に大嫌いだった体育の授業のことを思い出して暗い気持ちになりました。。。最初にキャプテン数人を決めてじゃんけんでチームに欲しい人間を選んでいくあの公開処刑システムってアメリカにもあるんだ!とか、体育教師「よーし、自由時間にしよう」Geeks「やったー!図書館で漫画でも読もう!」他のクラスメイト「やったー!ドッジボールしようぜ」Geeks「…。」の流れとか、ありすぎて笑った。ドッジボールって一体何が楽しいんだろう。人に思いっきりボールぶつけて、弱いものが逃げ惑うのを見て楽しむなんて教育上問題ありすぎじゃない?校則で禁止すべきだと真面目に思ってます。

Geeks: "Would somebody tell me what's supposed to be fun about this?"

一番お気に入りのキャラクター、 「ギークス」勢のBillは『Knocked Up』のひげモジャくんです
アパトウは気に入った役者をずっと採用する傾向があります

学園コメディの大前提となるのはスクール・カースト、つまり派閥と階級闘争の存在です。『Freaks and Geeks』はイケてるティーンの輝かしい青春を描くさわやか学園コメディでは決してなく、スクール・カースト下層のはみ出しっ子たちが奮闘するしょっぱい青春コメディ。なにしろ第一話の冒頭から「学校なんて大っ嫌い!」という台詞で始まるんですから。アメリカの高校は日本の中3から始まり高3で卒業の4年制なので身体の小さい下級生はいじめられるんだよね。さらにメガネやデブやブサイク、スポーツもダメだったら青春は暗い…。さきにFreaksを不良と訳しましたが、日本でいういわゆる不良のイメージとはちょっと違って「おちこぼれ」の要素が強い。マリファナやロックに傾倒し成績が悪い連中のことです。対してもっともイカす=カーストの頂点に君臨するのはアメフト部とチア部。日本で言う「リア充」ですね。ホラー映画でよく殺されています。

社会(学校)の周縁者を描いたという点でポール・フェイグはなんとファスビンダーによるドラマシリーズ『ベルリン・アレクサンダー広場』を意識したとのこと。こうして大好きな作品が繋がるとうれしい。
そういえば『Glee』って『Freaks and Geeks』っぽいな。わたしは数話見てハマらなかったのでやめてしまいましたが。

優柔不断なリンジー(左)と真面目っ子のミリー(右)

男子は身体の大きさや運動神経でカーストが決定されてしまうわけですが、女子はある程度自分で選択することが可能。根暗でも容姿次第で、ブスでもお化粧やファッションに次第で勝ち組グループに入れるのだ。主人公のリンジーは学年トップの優等生で、パパのお古のミリタリージャケットを常に着てるくらいだから少なくとも「勝ち組」ではないわけだけれど、数学研究会と不良グループの間を揺れ動いているところ。今まで知らなかったロックやマリファナの世界が最高にクールに見えて、ガリ勉クリスチャンの幼なじみミリーがうっとおしくなっちゃう。それを知りながら誰よりもリンジーを想うミリーが泣ける。。。実は彼女が大人を含めた登場人物の中で一番大人。親戚に中毒者がいることでなにげにドラッグカルチャーにも詳しいの笑。優柔不断なリンジーは気まぐれでフラっと数学研究会に戻ってみるものの、文化系女子特有のネチネチした内部抗争に幻滅し、 ちょっとアホだけど案外情に厚いFreaksにますます惹かれていくわけです。 こういう所属グループの定まらない女の子の微妙な心理、すごくわかるなあ。


※ちなみにスクール・カーストを最初にフィーチャーしたのは学園映画の父、ジョン・ヒューズ御大。プリンセス、ジョックス、ブレイン(=ギークス)、不良(≒フリークス)、ゴスというバラバラの派閥に属する5人が閉ざされた空間でじょじょに心を通わせていく密室劇『ブレックファストクラブ』は必見。決して交わることのなかった各グループが非日常的状況(プロム=卒業パーティとか)で出会ったとしたら?というのはその後の広義での学園映画の基本要素となりました。余談ですがすでに指摘されているように先ごろ完結した『仮面ライダー フォーゼ』(2012)にはジョン・ヒューズへのオマージュが散見されます。らしいです。本編見てないから知らん。

青春映画なのに誰も笑ってないこのビジュアルは革命的だったのです

打ち切り決定後の後半は強引な展開が多く、製作陣の苦労が伺えます。このままシーズン2、3と続いてメンバーの成長を見届けられたらよかったのにな…。最終回はもちろんプロム(卒業パーティ)で!ネタバレしてしまうと、リンジーが親に嘘をつき、全国選抜特待生の道を捨ててFreaksのみんなとロックバンドのライブに行くというのが最終回。もったいない!って思うけど、もう「いい子」の自分には戻れないし、どんなに反対されても自分の好きなことに嘘はつかない、という潔いエンディング。根が真面目な彼女が背伸びしたところで本気の「落ちこぼれ」には決してなれなさそうで、近い将来後悔するのが目に見えてるのがリアル。若い頃って、自分の価値がわからないからね。自分らしくいることが一般的な「価値」と一致するとは限らないのが現実。リンジーと同じくお化粧もしたことないマスリート(数学選手)のエースがひょんなことからイケイケ女子グループに加入するも、結局「わたしはもとの自分自身=マスリートであることが最高にクールなんだ」という結論に至る『ミーン・ガールズ』(2004)とは真逆の結末。


【Favorite quote】
When you get to college, it's funny. All high school stuff disappears. It's like, Do-over. When you get there, no one knows that you were an athlete or that you were burn-out. It's like a fresh start, you can be whoever you wanna be.---Barry, Neal's brother, a University student
(…だけど大学に行ったら高校であったあれこれは全部消滅するんだ。「やりなおし」ってことさ。お前がスポーツのエース選手であろうが不良であろうが、大学に行ったら誰もお前のことなんか知らない。まったく新しいスタートを切って、お前はお前が望むもの何にだってなれる--- Barry, ニールの兄, 大学生)

It's so true.大人になっても いじめがない世界はないけど、少なくとも学生時代のキャラ分けなんてものは卒業してしまったらすっかり無効になる。カナダにいるわたしのもとへも日本から痛ましいニュースが届きました。学校や家に居るのが辛かったら、学校や家を出たらいいよ。それでもどこにも居場所が見つからなかったら、国を出たらいいよ。命を絶つよりも簡単な「やりなおし」の方法はいくらでもあるということを、あの子が知っていたなら。

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