バンクーバー在住6年目、世界を股にかけるフリーターちひろうさぎの日記と映画レビュー。

2014/03/12

Cinema Review: Oldboy (2013)

「なぜ監禁されたのかと尋ねるな、
なぜ解放されたのかを問え」

Oldboy (2013) 2014年6月日本公開予定 imdb 予告編

韓国映画『オールド・ボーイ』のリメイク。リメイクの話はかなり前に出ていて(2008年頃)、当初スピルバーグが興味を示しているという話だったはずなんだけど結局スパイク・リーになったのね。オリジナル版はわたしのオールタイムベストのひとつなので当然ハードルは激アゲです。初めて観た後、すごすぎてしばらく動けなかった記憶…。まだ観てない人がうらやましい、超ネタバレ厳禁映画。なるべく予備知識なしで、絶対にオリジナル版を観て欲しいです。というわけでなるべくストーリーの本筋に触れないように書いていきますが、読まないほうがいいかも。まずは観て!

ある雨の日、男は忽然と消えた。彼は拷問もされず、殺されもせず、ただ毎日食事(リメイク版ではウォッカも)を与えられ小さな部屋に監禁される。部屋にはテレビにベッド、ノートとペン、シャワー室。窓はない。それが15年間(リメイクでは20年)続くと知っていたら少しはラクになっただろうか?気が狂っただろうか?妻が惨殺されたこと、娘は無事なこと、自分が妻殺しの容疑者になっていることを報じるテレビニュース。自分だけを置き去りにして世界は回る。いったい誰が何のためにこんなことを?なぜ突然解放されたのか?愛する娘はどこだ?

というストーリーは思った以上に忠実にリメイクされていたけど、オリジナルで「若干気になる、けどそんなの全然どうでもよくなるくらいよかった」という部分がちゃんとつじつま合うように修正されていて、そこはもう改善と言ってもいいと思う(このアイデアをパク・チャヌクが思いついていれば!)しかしそれと同時に映画ってつじつまが合う合わないとかそういう問題じゃないんだよなあ…と再確認させられた。これじゃただのよくできたサスペンスだ。Apple製品大活躍+男女コンビで謎解き、ということでちょっと『ドラゴン・タトゥーの女』っぽい。

オリジナルを撮ったパク・チャヌクはメタファーを多様した幻想的な世界観を魅せる作風で知られていて、多少のストーリーのアラも寓話のように美しくまとめてしまうのがうまいしズルくもある。具体的にネタバレしない範囲で言うと、オリジナル版では二人が共通して経験するアリの幻覚で気のおかしくなりそうな孤独とその共有を表現しているのに対し、リメイク版ではヒロインの元彼が「あの娘は傷ついてるんだ!これ以上傷つけるな!」と言ったり、本人がぐじぐじイジけて「あたし昔はアル中で薬中だったの」と言ったり、というかただ言うだけで、あまりに雑すぎると思った。ある種のトリックで出会う主人公とヒロインだけど、リメイク版ではその非科学的な設定を完全にとっぱらってしまったためにかえって現実感が無くなってしまっている。悲しい過去のために人助けの仕事をしていて傷を負ったダメ男を放っておけないヒロイン、というのは二人を結びつける理由としては不十分。中途半端にリアリティを追求したせいでダメになっている部分が多かった。まあ、そもそもファンタジーっすからね…。

こんな傘差してる女いたらあやしすぎる
(これ幻覚じゃないんだよ、へんなの)



バイオレンス描写はグロ含め一応継承されていた。でもこのカナヅチのカットとか伝説の横スクロール戦闘シーンとか…そっくりマネしても意味がないと思うぞ。

サミュエル兄さん

悪いやつは黒人!これは黒人映画をいっぱい撮ってきた黒人のスパイク・リーだからこそイヤミなくできた芸風。獄中で身体を鍛えた主人公がシャバに出て真っ先に白人のジョックス共をボコボコにするのには笑った。その直後にヒロインと出会い、少し後に狭い部屋で二人きりになるシーンがあるのだが、20年ぶりに生身の女に触れた男のリアクションとしては不自然だろう。オリジナル版の主人公は初めて目にした他人(男)の温もりに感激しほとんどキスする勢いで、初めて目にした女(オバチャン)を襲う。ギラギラみなぎる人の欲望、生や性への執着は韓国映画の得意科目だ。生ダコを喰らう名シーンはもちろんなくなっていた。その代わりに水槽の中のタコを眺める、という形で一応オマージュを示してはいる。オリジナル版でキーアイテムになっていた羽もさりげなく出てきたし、監督は単純に「この映画超おもしれー!でもラストこうだったらもっとよかったのに!」という、いちファンなんじゃないかという気がしてきた。だったらどうして、ズンと心に響く物語の主題を薄めてしまったんだろうか。独特のブラックユーモアから生まれるリズム感も完全に無視されていたし。



当たり前だけど映画って文化に大きく依存しているから、無理矢理違う文化の文脈に変換しようとするといちいちボロが出てしまう。韓国語のアジョシ(おじさん)というのは英語に翻訳できない言葉で、だから翻訳できない距離感で、これをジョー(=オ・デス)と呼び捨てにしてしまうと味気ない感じだ。あの「サランヘヨ、アジョシ」がないなんて…だめだよやっぱ。ずばり『アジョシ』もハリウッドリメイク予定とか聞いたけどどうするんだろう、アジョシ問題。パク・チャヌクのいわゆる復讐三部作の残りふたつ『復讐者に憐れみを』『親切なクムジャさん』も、韓国映画は韓国映画だからいいのであって、いくらお金をかけて焼きなおしてもオリジナルを超えられる予感が全くしない。ていうか比較的なんとかなりそうな『渇き』はあえてスルーなのん?

imdb, YouTube, Googleなどでoldboyで検索するともうリメイク版が先に出てくる。韓国映画スゲエというのは映画ファンの中では常識だが、世界の大半の人にとっては馴染みの薄いジャンルで、オリジナルを観る機会を得ない人やむしろリメイクだって知らないで観る人もいるのかと思うとなんだかモヤモヤ。ちなみにこの『オールド・ボーイ』っていかにも韓国的なテーマだと思ったんだけど、原案は日本のコミックなんだってね。日本映画もうちょっとがんばれや。

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