2013/09/23

Girls Season2: I just wanna feel it all

物語の核心部分に触れないよう心がけていますが、若干のネタバレが不可避な事は容赦ください。
(シーズン1のレビューはこちら) 


ひどく疲れて乗り過ごし、見知らぬ駅で目が覚めた。持っていたクラッチバッグが見あたらない。当てもなくフラフラと歩き着いた海岸で誰かの幸せのおすそ分けのウェディングケーキを頬張る…。シーズン1のラストはたしかにさらなる波乱を予感させるものだったが、その続きはあまりに痛々しいものだった。20代の女の子たちが自分勝手な理屈を朗々と唱え、暴れ、傷つき傷つけあい、笑っちゃうのにチクリと胸を刺すような前シーズンとはだいぶトーンが異なっている。10のエピソードを通して自分の友達のように親しんだ登場人物全員がつまずいて転び、血を流したまま泣き叫んでいるさまを見るのはあまりに辛い。文字通り肉体的に傷つくメンバーもいる。後半、ハンナが壊れていく様子はかなり憂鬱でほとんど『ブラック・スワン』を連想させるくらいだった。日常の小さな痛みは病んだこころを十分に罰していく。

シーズン1はライター志望のフリーター、ハンナが実家から仕送りを打ち切られる場面から始まるが、シーズン2の冒頭ではしっかり者のマーニーが突然職を失う。長年の交際後別れた彼にすぐ新しい彼女ができたと聞き、親友のハンナとは大喧嘩し同居解消、今度は失業、さらに…。悪いことはいっぺんにやって来るものだ。NYでサバイブするために背に腹は変えられずホステス(日本でいう水商売とは少し違うが、まあ遠からず)の仕事を始めるが、プライドの高い彼女には耐えられない屈辱である。これにはハンナも「そりゃ私はカフェのバイトで日に40ドルしか稼がないけど、少なくともクリーンなお金だからね」と冷ややかな視線。「私ホステスなのよ。来年の私っていったい何してるんだろう。来週の私は何してるんだろう?もうどうしたいのか自分でもわからない。時々ね、『お前の人生はこうあるべきだ、今日すべき事はこれだ』って誰かが命令してくれたらいいのにって願うのよ」---ついこないだまで「私は(ハンナと違って)自分のやりたい事が明確にわかってる人間といるのが好きなの」と言っていたあのマーニーの台詞とはとても思えない。毎日まるでパーティに行くみたいなドレスを完璧に着こなし、確固たる信念を持って前だけを向いていたのに、急に歌手を目指し始めたり変な男と寝て勝手に傷ついたり元カレの職場に押しかけるイタい子になってしまった。「あんたに彼氏がいなくて私に彼氏がいる、結局それが気に食わなくてずっと機嫌が悪いんでしょ?単純な話じゃない」ハンナは正しい。それまで恋人の途切れなかった女の子が破局をきっかけにバランスを失うというのは割とよく聞く話。

ハンナの元彼で今はゲイのイライジャに
「少年少女合唱団(ビッチver.) 」と評されたコスプレ制服

一方ライター志望のハンナはweb媒体や電子書籍の仕事が少しずつ入るようになり、夢に向かって一歩駒を進める。今までの悪事や身勝手は仕事のネタのため、身体を張ってトラブルに突っ込んで行くのは後に続く誰かを救う使命感のため、というのは言い訳にも聞こえるが、物書きとしては正しい態度だろう。「私ったら利他的で、みんなの面倒を見て…」というのはいくらなんでも言いすぎだが、シーズン2では周りのせいで相対的に多少マトモに見える。ひょっとしたら彼女がクレイジーなのは異性関係においてだけなのかもしれない。アダムがずばり言い当てるように、彼女は自分自身を愛しすぎているのに他人からの愛され方がわからないのだ。異性に対する無遠慮な言動は甘えから来るものなのに、甘えるべきポイントではちっとも甘えられない。今となっては彼女が一緒にいるべき人間は誰なのかは明確なのだが、なぜかぐるぐる遠回りしている(これもネタ作りの一環か)。気まぐれなセフレだったはずがいつのまにか恋仲に、そして泥沼腐れ縁になるアダムの気持ちはシーズン2で明らかになる。ハンナの友人で、アダムにとってはただの顔見知りであるレイと二人きりで遠出することになってしまう第6話はお互いの好きな女の子の話でムキになるボーイズトークがかわいらしい。GirlsをとりまくBoysもまた、恋にキャリアに悩み悪戦苦闘している。中でもレイは深刻な状況で、職はあるもののなんと実質ホームレス状態であることが発覚し、一回りも年下の恋人ショシャナに「向上心がなさすぎる」とフラれそうな危機だ。レイの親友でマーニーの元カレのチャーリーはアプリの開発で成功しプチブルジョワに(失業直後のマーニーにはこれが堪える)。アダムは…無職のまま。Boysのキャリア問題はシーズン3でもっと大きなイシューになってくると睨んでいるのだが、なんとチャーリー役のクリストファー・アボットはシリーズ降板を発表した。がーん。

さらばチャーリー

シーズン2の途中で忽然と姿を消してしまったジェッサは次シーズンで戻ってくるようだ。彼女なしのGirlsなんてありえない。 ハンナの自分勝手はみっともないが何故かジェッサの自分勝手は最高にクールで、周囲の人間は大いに振り回されながらも夢中になってしまう。

「待ち合わせに早く来る人って大嫌い。すごく失礼」

ジェッサ演じるジェマイマ・カークは私生活でもレナ・ダナム(ハンナ)の親友で、TwitterやInstagramを見る限りどうやら彼女自身がジェッサというキャラクターのモデルになっているようだ。彼女はレナが手がけた長編映画Tiny Furniture (レビュー書きかけ未完、、、そのうち公開します)でもジェッサとほぼ同じキャラクターを演じているが、そちらでは一見カリスマ的な彼女の脆い部分を早い段階から色濃く見せている。誰よりも器用に見えて、本当は誰よりも不器用な人。ハンナの前でだけ涙を見せたり帰省に同行させるなど一目置いている様子だったのに、ある日「またね」と手紙を残したまま風のように消えてしまう。あることを理由に心身ともにボロボロになったハンナは彼女の留守番電話に向かって「この大ばか者、いったいどこに消えちゃったのよ!今頃世界のどこかでアソコにピアスでも開けてるんじゃない?何にせよ、あんたの幸せ願ってるわよ!愛してる!」と叫ぶ。「あんたがいなかったら私誰に話しかければいいの?拒食症みたいなマーニー?Fucking ショシャナ?ストーカーのアダム?」とも。これにはなんだかわたしが傷ついてしまった。ハンナは留守電になるのをわかっていてジェッサに電話したのだろう。彼女が今、たった一言素直に「つらい」と打ち明けられる人間は友達の中にはいない。女の子が4人集まったからって年中服を交換してパーティに出かけたり一緒にカップケーキを食べたりする必要はないが、では友達を友達たらしめている要素とは何だろう。ハンナとマーニーが悲惨な状況を言い出せず、互いに今にも泣き出しそうな表情で「絶好調よ」「ワクワクしちゃう」と電話で話す場面は本当にせつない。ここへきてシーズン1のアダムの台詞を思い出す。It's a bummer, but people do outgrow each other. (悲しいことに人と人はいつのまにか離れてしまうものなんだ。) outgrowというのは成長して服のサイズが合わなくなるというような意味で、ここでは一方の人間がもう一方を置いて成長しすぎてしまうか、または双方が違ったベクトルで成長してしまいもう合わなくなってしまうということを言っている。シーズン2最終話のタイトルはTogetherなので、これはてっきりハンナとマーニーが再びtogertherという意味だと思ったのだが予想が外れてしまった。


締め切り当日の原稿用紙に記されているのはたった一センテンスだけ。その書き出しはこうだ。
A friendship between college girls is grinder and more dramatic than any romance....(女子大生の友情はどんなロマンスよりも壮大でドラマティックだ)。ハンナはこの続きに何を書こうとしていたのだろうか。

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