在りし日のパリピな千尋さん |
前は家にいる日はワイン1本、飲みに出かける日は1本以上+食前酒と食後酒、クラブに行ったらまずは駆けつけテキーラショット3杯からというペースで毎日欠かさず飲んでいた。仕事がある日も朝食と一緒にワインを飲んで出かけた。散歩に行くにも映画に行くにもいつも水筒にワインを入れて持ち歩いた。東京にいた頃はその倍くらいは飲んでたな。とにかく20歳になってから10年以上ほぼ休まずに飲みまくった。飲まないという選択肢自体がなかったから。
ところがここ2,3年飲んでる量は減ってるのに極端に二日酔いが酷くなり、飲み会後はまだ酔ってるのにすでに二日酔いマインドに蝕まれて「また馬鹿なこと言った/やった」と落ち込むことが多くなった。Deadly Classの打ち上げやボスの誕生日会など仕事関係の飲み会でやらかした事がずっと頭に残ってこのままだと仕事に影響が出るのではと怯えた。若い子たちと一緒に働いてるので何でもInstagramのストーリーで中継されてしまう。翌日に謝って回れば「みんなも酔ってたから大丈夫」と言われるけどわたしは全然大丈夫じゃない。
2月。酔っ払いすぎて浅い眠りから覚めた明け方に、頭はグラグラするし脱いだ服も靴も床に散らばって、どうやって帰ってきたかは思い出せないのにまた醜態を晒した事は覚えてて、明日はもう一日中地獄の二日酔いに苦しむの確定で、急にもうこんな惨めな生活はいやだと思ってNetflixのLOVEで知ったSobriety Appをダウンロードした。似たようなアプリはいくつかあるけれどデザインが気に入ってI Am Soberというのを使っている。
Sober(しらふ)になりたい項目をまず選ぶ。アルコールや煙草や各種ドラッグはもちろん、ジャンクフードやギャンブルや自傷癖なんかも選べるようになっている。次に止めたい事柄に普段どれだけお金や時間を費やしているか入力する。それから何故止めたいと思ったのかを書いて保存する。セッティングが終わると秒単位でカウントが始まり、soberになってどれくらいの時間が経ったかとどれくらいお金や時間を節約できたかをいつでも確認できる。
北米では依存症の問題はとても深刻に捉えられていて、AA=アルコホリクス・アノニマスを始めとした自助会にもアクセスしやすくなっている。映画とかによく出てくるよね。依存症の多くはそもそも孤独や心の不安定さに起因しているから、同じ悩みを抱える仲間と進行具合を報告し合いながら一緒に克服するのは理にかなっている。アプリも掲示板機能を備えていて同時期にsoberになった仲間がどんな調子か、ポジティブな変化や離脱症状の状態なんかを共有できるようになっている。依存症の進行度は人それぞれだからアプリだけで立ち直れる人もいるし、ミーティングにたまに顔を出す程度でなんとかなる人もいるし、スポンサー(支援者)をたてて頻繁に通う必要がある人もいるし、専門家のセラピーを受けたほうがいい人もいる。わたしの場合はあまりにアッサリお酒を止められたので逆にビックリした。全然飲みたいと思わない。そういえばお酒ってあったねというくらいで存在すら忘れてしまう。そもそも仕事が忙しすぎて平日に飲む時間が無いので週末出かける時だけ気をつければいい。お酒の代わりに炭酸水にレモンを絞ったものをガブ飲みしている。別にシャンパンやビールじゃなくても泡なら何でも良かったんかい、自分…。体調は慢性的な倦怠感が無くなって頭もシャキっとした。肌の感じとかは別に変わらない。常にシラフだから急に仕事に呼ばれても車に飛び乗ってすぐに出かけられるようになった。起床即作業が始められるので仕事がない日もテキパキと動いて出世するための転部活動をしている。シラフだと一日が長い!あとお金の使い道が無くなったので貯金が捗る。外食するとお会計が安すぎて毎回何かの間違いかと思っちゃうわ。
逆に困ったのは、食べる事が楽しいと思えなくなって作業みたいになったこと。お酒がないなら食べる意味がない食べ物って多い。料理もあんまりしたくなくなった。体重はもちろん減った。別に痩せたくないというかこれ以上痩せたら不健康なのでちょっと心配している。あと酔っ払ってる時に発動する謎のクリエイティビティが無くなり良くも悪くも感情の幅が狭くなった。ボキャブラリーが減ったような感覚。「酒止めた」と言うと周りの反応は割と「あっそ」とか「Good for you」って感じで特にそれ以上何も聞かれないんだけど、お酒はやっぱりソーシャライズするためのツールというか人が集まるところに出かければワインは当たり前に用意されている。Soberになってからも会食やパーティには出てるしバーにも行く。そんでコーラすすってる。自分はお酒が無ければつまらない人間だとか思わないように気をつけないといけない。飛び道具に頼らないで丸腰で戦わなければならない機会が大人になると増えるものだ。
言っとくけどわたしはfucked-upだった20代の自分を恥じてなんかいないし、取り返しのつく失敗を若いうちに大体全部クリアできて本当によかったと思っている。この10年間お酒のある場所で面白い人にたくさん出会った。シラフだったらビビってしまうような人にもどんどん話しかけていったし、英語もずいぶん上達した。お酒の神様ありがとう。だけどもう十分楽しんだし、嫌いになる前にお別れしなくちゃ。一生のお別れかもしれないし、またいつか上手に付き合える日が来るかもしれない。その日までバイバイ。
あのJohn Waters師匠でさえ"Crazy is sexy when you're 25, but in senior years, it's just pathetic."(25歳でクレイジーなのはセクシーだが老いぼれが同じことをしても惨めなだけだ)と言っている。ずいぶん前の発言だけど。今のわたしはお酒なんかなくても最強なのだ。自分がかっこいいと思えるバージョンの自分にアップデートするのだ。