2020/03/19

If The World Was Ending 世界が終わる日には家においで




彼♡は相変わらず連絡をくれない。3日連続でメールして1回電話して、ようやく「いまミュージシャンの友達と一緒にいるから話せないよ。後でね」と短い返事があった。後でっていつよ?彼は映画の道を志してバンクーバーにやってきて、VFXの専門学校を出ている。フルタイムの販売の仕事の合間に取り組んでいたミュージックビデオの制作が今は忙しいのだろう。何も話してくれないけど多分そうに違いない。彼と会うようになって初めて、これまで付き合った恋人たちがいかにわたしを大切にしてくれたか痛感した。吐きそうなくらい不安にさせたりくだらない駆け引きを仕掛けてきた事は決してなかった。彼らに未練はないけど、寝落ちするまで髪をそーっと撫でて見守ってくれたり、ソファでウトウトしている時に布団をかけておでこにキスしてくれたり、スープを作ってくれたり涙を拭いてくれたり、そうやって完全に安心して身を任せられる人が昔はいたのにと思うと胸が痛まないことはない。特にこうした非常事態には。

とかなんとか考えてたら近所のスーパーで直近の元彼にバッタリ遭遇してしまった!こんなことってある?!(良くも悪くも「こんなことってある?!」と驚くような事件がとてもよくある。そういう星の下に生まれたのだろう) 彼とは2年間交際し、半同棲して将来のことも話し合っていたにも関わらず去年の夏一方的に別れて以来着信拒否して一言も喋っていなかった。わたしはいつもこうしてろくにさよならも言わずに最も親密な誰かを「消去」してしまう。一緒に過ごした時間は消えやしないのに。

スーパーの隅のスターバックスはコロナウィルスの影響で持ち帰りのみの営業だったので外に出て少し散歩した。わたしは歩くのが嫌いだけど彼と一緒に花や店や人の家を観察しているとどんどん遠くまで行けて、遠い遠いと文句を言いながらやっと折り返してもおしゃべりは尽きず、またあっという間に家に着いたものだった。

久しぶりに外を歩いたら桜が咲き始めている。こうしている間にもわたしの頭の中は120%好きな人のことでいっぱいなので彼の話だけしかしない。わたしが、わたしの美にも魂にも優しさにもまるで興味を示さない男を夢中で追いかけていると知って元彼はただただ悲しそうに「君と付き合ってる時ぼくも同じような気持ちだったよ」と言った。そういえば「用事も無いのにメールするのやめて」「会うの週に一回で十分だよね?」「Tinder消すつもりはない」とか言ったっけ…。今思えば単に彼のことあんまり好きじゃなかったんだと思う。あと他に好きな子がいた気もする。まあ、今好きな人もつまりそういうことだろうな。どんな道筋を通ってもこの恋はバッドエンドにしかたどり着かない。しかもそれはそう遠くない未来に待っている。彼のビザがもうすぐ切れそうなのだ。解散するのが先か、ビザ切れが先か。どうしても移民したいとのことだが今回のコロナパニックでスポンサーを探すのはほぼ不可能になってしまったので、残された手段はカナダ人か永住権保持者と結婚することくらいだろう。あの、ちなみにわたしはもうすぐカナダ人になる永住権保持者で独身ですけど…。

半分冗談半分本気で「結婚」という言葉を出したところで「それ以上聞きたくない」と元彼からストップがかかった。わたしのことを無条件に愛すると言ってくれた気持ちは今も変わらないという。彼の手を振りほどいてわたしは愛よりも痛みを選んだ。Needとwantは違う。We accept the love we think we deserve =人は自分に相応しいと感じる愛を選んで受け取るという言葉があるけど (『ウォール・フラワー』より)、わたしはきっと元彼の愛情を受け取るに値しない(と信じている)のだろう。これが一過性のものなのか運命なのかはわからない。でも今日明日に変わるものではないことはわかる。このへん英語で考えたことを日本語に訳しているので文章がおかしい、すいません。At this moment I dare to choose pain over love. I know it's insane, but it is valid. There is no right or wrong; my raw emotions are what matter. I'm not sure if this is a phase or fate, but I don't think it's passing anytime soon.

スーパーに戻り買い物の続きをしながら二人だけに通じるジョークを言い合ってゲラゲラ笑っていたら涙が止まらなくなり、空っぽのパスタの棚の隙間でわたしたちは抱き合った。映画のように美しい瞬間。彼はわたしのことをほとんどすべて知っていて、記憶していて、わたしに消去されてもずっとわたしの残像に恋をしていた。というのは彼の言葉を借りているのであって自惚れではないよ。


「最近は筋トレなんかしちゃってムキムキしている」とムキムキポーズをして見せたら、彼は「君のそういう小さい仕草が本当にかわいらしくて大好きだった」と泣きそうな顔で笑った。わたしも同じく、ちっとも愛情を返してくれないあの人の小さな仕草を全て愛おしいと思う。わたしの一挙手一投足を愛してくれる人を目の前にしてもわたしの気持ちはどこか別の場所にあってもう二度とは戻らない。

It was nice seeing you, 近所に住んでるんだからたまには連絡を取り合おうと言って、着信拒否を解除してから離れた。「家に来たらトイレットペーパーもあるよ」。

家に着いてすぐ「この曲聴いてみて。ラジオから流れるたびに君のことを思い出すんだ。ていうか今の状況にピッタリすぎるね」とYouTubeのリンクが送られてきた。


JP Saxe - If the World Was Ending (Official Video) ft. Julia Michaels

I know you know we know you weren't down for forever and it's fine 
I know you know we know we weren't meant for each other and it's fine
But if the world was ending
You'd come over, right?
You'd come over and you'd stay the night
Would you love me for the hell of it?
All our fears would be irrelevant
If the world was ending
You'd come over right?
The sky'd be falling and I'd hold you tight
And there wouldn't be a reason why
We would even have to say goodbye
If the world was ending
You'd come over, right?
Right?

君がぼくとの永遠に興味がないこと分かってたよ、それは別にいいよ
ぼくらは一緒になる運命じゃなかった、それは別にいいよ
だけど世界の終わりの日には家に来るよね?
ぼくの家で一晩過ごすよね?理由もなく愛してくれるよね?
全ての恐怖はもう意味を持たないさ
空が落ちてきたならきつく抱きしめるよ
理由なんかない
さよならを言い合わなくちゃいけなくなったとしても
世界の終わりの日には家に来るよね?


せ…切なすぎる。こんなに切ない歌があっていいものか。この曲がリリースされた去年には仮定法のwould=たとえばもしもの詩だったけど、まさに世界がバラバラになりそうな今聴いたら圧倒的な説得力がある。お互いどうにか納得して別々の道を選んで前に進むことにして平常時はそれでよかったけど、世界が強制終了するとなったら話は別で、もう無理に忘れようとしなくてもいいし憎み合わなくてもいい。いろんなしがらみのせいでもう戻れないあの場所は今もひっそり存在している。あの場所に帰ろうよ、帰っておいでよという歌です。

世界の終わりの日に誰のことを考えるだろう、誰に一番会いたいだろう。何を一番後悔するだろう。元彼が何度もメールを送ってくるので読まずに消去し、また着信拒否設定に戻した。わたしは前にしか進めない。

2020/03/17

The Corona Virus Apocalypse 2020 コロナパニックと今世紀最大の片想い

以前プロダクションから支給されたマスクの出番が来た

刻一刻と状況は変わっている。バンクーバー現地時間(PDT)3月17日の午前にこれを書いています。少し前から日本やアジア諸国でコロナウィルスの騒ぎがあったのはニュースで見ていたけど、北米でもだいぶ遅れて突然大パニックになった。カナダ人にとって最も大切なアイスホッケー含む全てのイベント中止、病院やスーパーマーケット、一部の飲食店がテイクアウト限定で開いている以外は全てのビジネスが閉鎖、国境も閉鎖など事態は極めて深刻です。ずっと家にいるので知らないけれど街はゴーストタウン化していてトイレットペーパーや缶詰の買い占めも起こっているらしいと聞く。なんか3.11の時を思い出すな。

在庫見つけたらSNSで情報シェア

市民はself(自己) quarantine(検疫)といってとにかく家から出ないことが推奨されていて、うちのルームメイト達も全員仕事が休みになって家にいる。7人寄れば文殊の知恵ということで心強い。猫もいるし。


普段忙しい人は突然やってきたバケーションに大盛り上がりですが、わたしは11月からずっとon-call(仕事待ち待機=ほぼ無職)で既にめちゃくちゃ暇していてそろそろ動き出すかと思っていた矢先だったのにこんなことになってしまって完全に発狂している。照明の仕事はまとまった企画は夏頃まで期待できそうにないとのことで、4月からアシスタントに戻って単発のギグを拾うつもりだったのに先週ほぼ全てのプロダクションがキャンセルされたのでもうそれも無理になっちゃった。失業保険を受給しているのと貯金も少しはあるのでがんばって節約すれば半年くらいは何とかなるかもしれないけど、年間スケジュールが完全に狂ってしまったこの業界自体の未来が心配。

仕事の一環と思って毎日ヨガとフィットネスクラスに通って身体を鍛えるのが唯一の用事だったのについにジムも閉鎖されてしまった。本当に暇だよーーー!FB見てると世間はホームパーティ祭りで、普段なかなか予定が合わない友達と会うチャンスということで酒持ちよってweed吸ってNetflixイッキ見と大変楽しそう。突然天気も良くなってきたので庭が広い友達の家に集合でチルや。


あと、これ付き合いたてのカップルにとっては最高のイベントだよね?コロナがきっかけでできちゃった婚して孫の世代まで語り継ぎそう。今まで常にパートナーがいたのによりによってこんな時に限ってシングルのわたしはというと、仕事が激忙しい彼♡の職場がついに今日から閉鎖を決めてたくさん一緒にいられるかもしれない事をとても喜ばしく思っています。しかしメールの返事が来ない…休みなのになぜ。Tinderで出会った彼はここ2ヶ月間わたしが一方的に追いかけ回しているだけでボーイフレンドではないし、多分今後もならないでしょう。こんな完璧片想いって自分史上初めてかも?わたしのことをちょっとも好きにならない男がまさかこの世に居るとは知らなんだ。Girlsのアダムみたいな典型的ダメ男の気まぐれに振り回されて毎日一喜一憂している。まあ要するにヒモなんで、デートっていうのは食事を奢ってあげたり家の掃除をしてあげたり車で職場(徒歩10分)まで送り迎えしてあげたりとかでですね…。金と車で男を釣れるなんてフェミニスト冥利に尽きるわ、って本当にどうしてこうなった。やっと夢中になれるキャリアを見つけて、やっと貯金できるようになり、やっと保険や年金プランもついて、やっと酒をやめてまっとうな人間になろうと決心し、やっと気持ちに余裕ができてこれからは人に優しく生きようと決めた途端にこれですわ。わざと男に意地悪ばかりしていた頃はうんざりするほどモテてたくさん大切にされてたのに。退屈だと思って捨てた元彼たちがいかに愛情に満ちた美しい人間だったか今更気づいたよ。ジムに通って栄養のあるものを食べて自己啓発本を読み注意深く積み重ねた自信を彼はいとも簡単に奪っていく。でももう今さらこんな気持ちキャンセルできない。好き、好き、好き。どんなに傷ついたってかまうもんか。毒を食らわば皿までじゃ。

あの〜返事ください…(白目)
ちなみにこの前日のメールにも返事来てない。

とにかく何もかも、今なぜこのタイミングで?という不条理感が強い。Everything happens for a reason (起こること全てに理由がある)。宇宙だかなんだかそんなような大きなものに試されているんだろうか。

ウィルスに感染して療養中の方、亡くなった方、経済的に不安な思いをされている方には大変申し訳無いが、わたしにとってコロナパニック最大の悲劇は休みにもかかわらず彼がかまってくれないことであり、報われない恋の思い出として永遠に心に刻まれることだろう。

IMDbに載りました

去年の暮れに照明のお手伝いをした短編作品の監督から連絡があり、世界最大の映画データベースIMDb (Internet Movie Database)にわたしのページを作ってもらいました。

https://www.imdb.com/name/nm11396355/?ref_=ttfc_fc_cr22

映像芸術に関わっているという自負さえあれば誰でも執筆編集できるものなので特にすごい事でもないんだけど、東京のビデオ屋や古本屋に入り浸って映画の事ばかり考えていた10代の頃には IMDbに載るなんて夢のまた夢だと感じていたから、わたしにとっては特別な意味がある。日本に生まれ育つことはdiscourageされる事の連続であり、面と向かってお前には無理だと言われたり、性別や年齢や容姿で差別されたり、「世の中そんなに甘くないよ」という社会の重圧に負けてしまいそうになるけど、そういう奴らを絶対に信じたらダメ。そしてさらに手強い「何にもなれやしない」とかいう自分自身の妄想に囚われたらダメ。そんなものには全く何の意味も根拠もないんだから。と、当時の自分に言ってあげたいです。英語とインターネットだけあればできないことは一つもない。Don't dream it, Be it. 夢など見るな、夢になれ。









2020/01/13

ちひろうさぎの冬休み

今年も雑なおせちを作った
正月はお酒解禁

あけましておめでとうございます。2012年の1月にカナダに来て8年、このブログも8歳になりました。1月13日の今日は久しぶりのまとまった雪で、スノータイヤを履いていない車は立ち往生、道路は封鎖、交通は麻痺、学校は休校と毎回恒例のバンクーバー民大パニック。しっかりしろカナダ人!わたしは仕事をしていないので家でお茶を飲みながら猫を膝に乗せて窓の外を眺めております。今週いっぱい雪と氷点下の気温が続くのを見越し先週までに食料を買い込んでおいたのさ。立て籠もる準備は万端だ。



照明の仕事を11月に始めて最初の2週間は絶好調だったのですが、オフシーズンに差し掛かるとユニオンからストップがかかった。コネさえあれば仕事が取れるPAとは違いメジャーな企画の照明部は全部ユニオンを通しての派遣という形になり、メンバー優先ルールに基づき新人には仕事が回ってこないようになっている。移籍を決めて急いだつもりだったけどギリギリ繁忙期に間に合わずショー契約を獲得することができなかったのが痛かった…。まあまたチャンスは巡ってくるさ。

業界に入って初めて香盤表に名前が載った日。
今までは「その他PA 8名」みたいな扱いだった

初めて照明をあてた作品

というわけで11月の半ばからずっとお休みで次にいつ仕事できるかは不明。去年もポジションは違えど同じ状況だったのである程度心の準備はできていたし、寒すぎて働きたくないし、失業保険を受給しているのでまあ別に焦ってはいない。ありがたいことにPAとして戻ってきて欲しいというお誘いは常にあるんだけど、中途半端に数日働いてしまうと失業保険が打ち切りになり全く働かなかった場合と収入が変わらない可能性が高いので謹んでお断り。照明技師としてのプライドも多少はあって、というか「でかした!昇進!」と鳴り物入りで送り出してもらったので戻りづらいのもある。

去年一年を振り返ってみるとあんなに忙しかったのに全部合わせても6ヶ月くらいしか働いてなかったらしい。でも働いていた6ヶ月間は週に80時間と普通の人のちょうど倍の時間働いていたと思うとまあ納得。そうだもうすぐ確定申告だ。確定申告は面倒だけど毎年払いすぎた税金が戻ってくるのでボーナスのシーズンと捉えている。

いつまで続くかもわからない長い冬休みは本を読んだり映画を観たり、福利厚生を使ってクリニックを巡ったり、ヨガとフィットネスをフリーパスに切り替えて毎日通ったりとプロジェクトの最中には絶対にできない贅沢な時間の使い方をしております。ただし国外に出てしまうとやはり失業保険打ち切りなので旅行はできないのよ…。あと休みというか厳密に言うと今もスタンバイ中で急に仕事の依頼が来る可能性は十分にあるのであまり遠くに行かずに携帯電話に注意を払う。




仕事では倍以上も体重のある大男たちと肩を並べて肉体労働をこなすので大嫌いな筋トレを始めた。運動するとすごく気分が良くなる!こんなことは散々言い尽くされてきたことだけど嘘に決まってるというか、スポーツが好きな人はそりゃそうだろうと思っていた。友達は知ってると思うけど世の中にわたしほど運動を憎む人間はそうはいない。1時間のセッションの間は辛いし全然ついていけないしでずっと早く終われと念じてるんだけどスタジオを出ると信じられないくらいハイでスキップしたくなる。そして早くまたその気持ちを味わいたいと思う。脳から麻薬が出ているのだろう。これはやみつきになるね。30代の新発見。

それでもまだ有り余る時間はアプリを使って新しい出会いを模索している。去年8月に元カレと別れてから未だにシングル…。10代の頃から完全にシングルだった事が無かったので戸惑う。主に自分の性格の問題で不健康な関係に陥る事が多く、近年はそのパターンが深刻化していたのでここいらで一度リセットするべきだったのかもしれない。仕事が忙しい時は寝たり食べたりする時間を捻出するのにいっぱいいっぱいで恋人にかまってる暇なんかあるわけないし、それを理解してくれる同じ業界の人と付き合うのはトラブルの元だし、でも一人ぼっちは本当にさみしい。とにかく今暇なので面倒なコミットメントはなしで一緒にダラダラしてくれるパートナーが欲しい。お酒をやめて外出しなくなったので余計に出会いが無くなった。そこで!アプリですよ。オンラインデーティングは今や最もメジャーな出会いの手段になっていて、周りでもアプリがきっかけで付き合ったとか結婚した人の話をよく聞く。ていうか二年付き合った元カレもTinderがきっかけだったし。8年前カナダに来た時もこんなサービスがあったら友達作るの早かっただろうに。自分が気に入った相手とだけメールしてみて嫌になったら無視して放流すればいいだけなのでMeetUpとかパーティとかでキモい男に追いかけ回されるよりずっと安全。男女ともにいくらルックスに自信があっても数回の短いメッセージで知性とユーモアをアピールできなければすぐにスルーされてしまう厳しい世界でもあるので英語の勉強になるよ。近所に住んでるのにアプリが無かったら知り合えなかった人たちと友達になるのは不思議。今、その中の一人と「恋人のふり」をしている。わたしが欲しかったのはまさにこれだったのだ。Fleeting romance.


はー貴族の暮らし最高。天職と思える仕事を愛して、保険も年金もあって、何ヶ月も仕事しなくても心配しないで遊んでいられるとか、人生がここまで良くなるなんて夢にも思わなかった。20代の頃の惨めな自分に今の自分を見せてあげたい。まだまだ自分はこんなもんじゃないと気づいているなら、何かアクションを起こさなければ今日よりいい明日はやってこない。2020年も攻める一年にする。

2019/12/23

Don't Wait to See レーシック手術を受けた

カナダ監督協会の福利厚生で$2000の補助が出るというので、ついに念願のレーシック手術を受けてきた。ほぼこれ目当てでメンバーになったようなものだからな。実は去年一度相談に行ったんだけど、思ったより費用が高い上に当時勤めていた銀行の保険では$600しかカバーされず泣く泣く見送ったのであった。転職したところでこんな短期間で給料が大幅アップするとか、もっと良い福利厚生を受けられるなんて夢にも思わなかったな…。本当この1年で環境が劇的に変わった。

885 W Georgia St #110A 
Vancouver BC, V6C 2G2
(604) 639-8088

前回と同じ大手クリニックLasik MDに連絡してみたところ、さんざん精密検査してもらったのに1年以上も時間が開いてしまったので検査しなおしとのこと。とはいえデータは残ってるので変化の可能性がある箇所だけ再検査で1時間くらいで終わった。要するに普通の視力検査みたいなのと、機械を覗き込んでビカビカ光を見させられるというようなものでした。最初のカウンセリングの時はこの他に瞳孔を強制的に開く目薬をさして目玉をめちゃくちゃ精密に診られて角膜の厚み?などを調べた。レーシックは向いている人とそうでない人がいて、日本でだけど実際向いてないと診断されて受けられなかった人を知っている。わたしの場合は手術は受けられるが視力が極端に悪いので料金が高くなると言われた。Lasik MDは「業界最安値保証!片目$490〜」を謳っているのだがこれは大して目が悪くない人が最もシンプルな手術を受けた時の参考料金なんだそうです、どうせそんなこったろうと思ったぜ。結局支払った総額は手術+フォローアップ検診3回で$3300と、目薬代$60(ユニオンの保険適用後の価格)。レシートを提出すると保険会社から$2000返金されるという仕組み。分割払いオプションもあるようです。

手術前のわたしの視力は0.1以下、コンタクトや瓶底眼鏡を使ってもまだろくに見えていない状態。ギンギンに見えるまで度数を上げてしまうと頭痛などの症状が出るため、日常生活でそんなに良く見えなくても別にいいですよね?とコンタクト屋にも眼鏡屋にも勧められたからである。仕事は肉体労働な上に炎天下や大雨にさらされる事も多く眼鏡だと不便なんだけど、長時間労働でもあるので本来8時間以上連続装用するべきではないコンタクトは乾きまくりで辛い。休みの日もヨガの時やメイクでおしゃれしたい時はやっぱりコンタクト。使い捨てコンタクトは通販で買っていて年間$300くらいかかってるはず。眼鏡は普通のが2ペア(日本語の数え方わからず)と度入りサングラスが1ペア。万が一コンタクトに問題が起きた時のために1ペアは持ち歩くようにしている。前は元彼氏の家に1ペア置きっぱなしだった。裸眼ではまっすぐ歩くことすらできない。急なお泊まりとか無理ですから!


レーシックは日本では副作用や長期的なリスクを懸念する人が多いけど、カナダではけっこう知人でやったという話聞くしみんな絶賛してるし、もう大人なのでこの先老眼になるまでは極端に視力が変わることはないだろうし、とにかくもう目が悪い生活に疲れたので悪い評判とか全部シャットアウトして強行突破した。一番良く聞く副作用が「眩しい光に耐えられなくなる」で、これは照明技師であるわたしにとっては完全に致命的なんだけどまあ役者でもやってる人たくさんいるし(ブラピとか)、最悪サングラスをして仕事することも可能なのでもうどうにでもなれ。手術は来年になると思っていたら「明後日やっちゃいましょうか」と言われて若干怯むのであった。まあ先延ばしにしてもしょうがない。

当日は朝9時集合。最終確認でまた視力検査をし、支払いを済ませ待合室で待たされる。こんなに待たされると思っていなかったのでKindle置いてきちゃったよ。カウンセリングの時に「不安感が強い場合はザナックス(抗不安剤)を用意しています」と言われたことを直前になって思い出す。ザナックスは娯楽用に乱用されることが多い合法ドラッグ。ちょっとだけ味見してみたかったな…いやなんでもないです。

結局40分だか1時間だか待って手術室横の薄暗い部屋に通された。ヘアネットと靴カバーをして、麻酔の目薬をさしてもらう。この部屋で2人順番待ちをして、向こう側にもう2人手術直後の人がサングラスをしたまま休むエリアがある。わたしの次に並んでたのがいかにも神経質そうな女性で、ここで働いてるのかというくらいレーシックに詳しかった。いくつかのクリニックでカウンセリングを受けてここが一番信用できそうだったらしい。Googleで「レーシック バンクーバー」って調べて最初に出てきたところに即決したわたしの素直さよ…。

そうそう最近は普通のレーシックの他にPRK(オールレーザー)という術式があり、PRK専門のクリニックもあるんだって。わたしの目ならどちらでもイケるから当日選んでと言われた。そんなカジュアルなのかい。ネットで軽くリサーチし、当日ドクターと話して普通のレーシックに決めた。PRKのほうが$500高いけど効果は同じ、術後の治りはレーシックに比べてだいぶ遅い、ここ数年に実用化されたばかりの新しいテクノロジーなので謎も多い、などメリットが全然わからなかった。例えば角膜が薄いなど特定の目のコンディションの人にはこちらのほうが精密にできる?とかで安全度が高いようです。詳しいことは専門家に聞いてくれ。

いよいよドクターと握手し手術台に寝転ぶと、肝の据わったわたしもさすがにドキドキした。大量の目薬をジャブジャブ投入したら片目を紙テープで無理矢理閉じられ、片目はやはり紙テープで睫毛ごとこじ開けられルドヴィコ療法的なクリップをはめられる。「これよかったらどうぞ」と両手にストレスボールを握らされた。


手術の手順は理解してもおそろしいだけなので事前の説明は全て右から左へ聞き流した。目薬の海に溺れていて尖った器具が眼前に迫ってくる的な恐怖は無くて、ものすごくぼやけている。暗いところでぎゅっと目を閉じるとなんか模様が見えるアレの豪華版というかんじでけっこう面白かったです。一度真っ暗になって赤い星がたくさん見えるところがクライマックスだったな。目開いたままなのに真っ暗になるって、多分一瞬失明してるってことだよね。無機質な電子音と、ドクターと助手の人が視力の情報とレーザーの強度?を復唱して確認しているのがまた未来の言葉みたいに聞こえて全体的に『2001年宇宙の旅』っぽかった。


レーザーで目玉がこんがり焼ける匂いが香ばしい。歯医者でバイトしてた時の歯肉を焼く匂いと同じだね。人体の焼ける匂い!痛みはないけどグッと眼球を押される圧力は少し感じた。ものの10分15分で手術が終わり先ほどの部屋に戻って休んでいると麻酔が切れたのか少し沁みるような感覚が出てきて、ナイスタイミングで助手さんが目薬を追加しに来てくれた。人体とは不思議なもんでペロッと薄く削ぎ開いた眼球の表面は30分くらいで元通りにくっつき始めるそうです。くっついてるのが確認されたのであっさりリリース。

こういうのわたしはまじウケる(笑)と思える方だけど怖がりの人には厳しいかもしれない。みんな付き添いの人と来てた(手術室には入れない)。こっちの人ってちょっとした検診とかでも病院はパートナーが付き添うのが当たり前みたいな文化じゃないですか。まあわたしも彼氏いたら多分連れてきてたけど…秋に別れて今もシングルなんで…。ていうかレーシックは外科手術なので、帰りは車で誰かに迎えに来てもらうというのが法律で決まっているらしい。頼めばニコが車出してくれたと思うけどダウンタウンはパーキング高いし、クリスマス直前で道は激混みだし、駅の目の前なんだから電車のほうが早いくらいなんだよな。日本語でググるとどこのクリニックも「当日は自分で運転しないでください、電車やバスで帰れます」と書いてある。何度も「お迎えは来てるんですよね」と聞かれたけど別に車に乗り込むところを見届けられるわけではないので適当にあしらって一人で電車で帰った。手術直後は水の中にいるみたいにボヤけているものの、その向こうの風景は確実に見える!今までは裸眼で電車に乗るなんてありえなかったもん。近所の薬局で処方の目薬を購入し、保護サングラスをかけたままじっと目を閉じて過ごした一日でした。事前にオーディオブックをダウンロードしておいたのだ。2時間おきに目薬をさし、寝る時もサングラス着用。

ボロ家で隙間風がすごいので
家の中でもダウンジャケット

翌朝起きたらいきなり部屋の様子がウルトラHDでくっきりはっきり見えてナニゴトかと驚いた。本当に目が良くなっちゃった!夢じゃなかった。フォローアップの検診があり、傷は順調に回復していて視力は20/20といってもいいでしょうと言われた。20/20というのは慣用句的にパーフェクトな視力という意味で具体的な数値はわからない笑。適当だなあ。首から下だけシャワーして顔をジャブジャブ洗うことはできないのでノンアルコールのウィッチヘーゼル化粧水で拭き取るだけ。そしたら肌の調子が目に見えて良くなった!思わぬ副産物。アイメイクは最低でも一週間は控えるとのことでクリスマスはすっぴんで過ごすことになってしもうた。オフィスなど安全な仕事なら手術翌日から復帰する人もいるようですが、やっぱりすごく目が疲れる。わたしは年明けまで撮休なので仕事の心配はなし、3日目にはヨガに行ったり車で買い物に出かけたりと日常生活に戻りました。対向車のヘッドライトが全部星に見えた。これがハロ/グレア現象か…!数週間から数ヶ月で治るらしい。一番心配していた光に過敏になってしまう症状は今の所はなくて一安心。こうしてパソコン作業もできるようになりました。めでたしめでたし。

飛躍の一年の締めくくりにもうひと踏ん張りエイヤと勇気を出したおかげで目が良くなって、とてもいい気分で新年を迎えられそう。2020年はもっといい年になります。断言。

2019/11/15

Shine a Light 照明部を目指して

映像のキャリアを始めた当初から目標にしていたDGC カナダ監督協会のメンバーになりました。ちょうど一年かかった。今やっている番組では実質Key(代表)としてチームを引っ張ってきて、規約に沿って会員ステータスが出次第正式にKeyの称号がもらえるという話だったんだけど、これを辞退して次の目標を目指すことにした。今は照明技師になるために着々と準備を進めています。


一年間ロケーション部プロダクション・アシスタント=PAとして働きながら他の部署の仕事ぶりを見せてもらってもあまりピンと来る事がなくて、特にやりたいわけでもないけどこのままなんとなくPAの進化形態であるAD方面かロケーションコーディネーター方面に進むことになるのかなとまるで他人事のように思っていた。だけど今回初めてリーダーシップを取る立場になってあまりにもチームのレベルが低すぎてがっかりする事が多く、この分野で全くヤル気のない人たちと仕事をするのが突然嫌になってしまった。PAは業界の最底辺で誰もやりたがらない地味な雑用を引き受けるポジションなので、新人は仕事ナメてるし長くやってる子たちは完全にjaded=不貞腐れてしまっている。

わたしはどんなに惨めでつらい日だっていじけずにがんばってきた。他の子達が座って居眠りをしたり携帯をいじったりしている横でしゃんと立って、何かサポート出来ることがないかいつも探してる。毎日ワクワクしてるし毎日感動してる。それは一年前と全く変わらない。You're only one person away from your dream(たった一人との出会いで夢は掴める)と言われる業界で、いつか誰かがきっとわたしに気づいて掬い上げてくれると信じていた。まさかそれが10個年下の男の子だとは思いもしなかったけれど。

交通整理してたらみんなにカワイイと
褒められまくってご機嫌の千尋さん

わたしはこの番組のクランクインから参加していて、照明部の彼はたしか第3話くらいから合流してきた。面識ないし自己紹介もしてないのに一日に何度も無言でフィストバンプ(グーの手を合わせる挨拶)の手を差し出してきたり、すれ違いざまにスッと手を触ってきたりするので「やれやれまたわたしのファンか」と思っていた。Film Industryに従事するものはそうでない人には理解しがたい異常なスケジュールのせいで圧倒的にシングルの人が多く、みんな隙あらばと職場で出会いを探している。そして案の定こじれて仕事に支障が出ている。

気がつけばずーーーーっとこっちを見ている彼がついに話しかけてきたと思ったら!「チイチイさ、照明に来ない?絶対向いてると思うんだ」とな。いや誰かが呼んでるの聞いてわたしの名前知ったのかもしれないけどこっちは名前知らないし、向いてると思うってわたしの事なんも知らないだろうが!つーかどう見てもハタチか下手したら18歳くらいの赤ん坊のくせに何様なんだ?と思ってまじまじ見たらけっこう綺麗な顔をしているのだった…。その後も彼は毎日恥ずかしくなるくらいずっとこっちを見ていて目が合うと顎をクイッと上げて合図したりはにかんだ笑顔をくれた。一週間後くらいにまた「それで、いつ僕らと一緒に働きはじめられそう?」と聞いてきたので「身体が小さいし力がないから無理だと思う」と言うと彼は「身体の大きさは関係ない、ちゃんと鍛えてコツを掴めば重いものは持ち上がる。うちの女の子たちを見てみなよ」と言った。「中でも僕の親友の○○ちゃんなんかチームの要だし、badassでかっこいいでしょ。」

この一年間、数日助っ人したようなのも含めると10個くらいの企画に参加したけど女性の照明技師を見たのは今回が初めてだった。しかも3人もいる、しかも身長がわたしと同じくらい小さい子ばかり、しかもしかもその彼の親友ちゃんはアジア人。照明チームの半数が女の子というのは業界長い人に聞いても前代未聞だという。2019年になってもこの業界は圧倒的な男社会で現場にいるのはヘアメイクさんや衣装さんも含めて男だらけ。中でも照明は電気技師を兼ね、高電圧の熱くて重い機材を扱う部門なので伝統的に男の仕事と考えられてきた。それに、「白すぎるハリウッド」というのは本当で業界のダイバーシティの無さに最初は戸惑った。多民族の街バンクーバーで職員の99%が白人の職場なんて普通はありえない。露骨に外人扱いされるのも初めてだった。役者とそのスタントを除けば有色人種はいつも自分だけで、奇跡的にアジア人を見かけた日にゃポジション関係なくお互い駆け寄って「同胞よ…」と熱いハグよ。

だから照明部エースのアジア人女性の存在は衝撃的だった。自分と似た属性の人が活躍している姿はダイレクトに希望になる。You can't be what you can't see(見えない何かを目指すことはできない)とはよくいったものだ。いま映画やドラマでやっと白人男性以外の物語が語られるようになってきているのは本当に大きな意味のあることだと思う。女だから、肌の色が違うから出来ない仕事なんかカナダにはない。出来るか出来ないか決めるのは自分自身。たとえ人の何倍もの努力をしなければ認めてもらえなかったとしても、やってやろうと覚悟できたのはロールモデルがいてくれたから。そして1997年生まれ(※FBで調べた)の美少年が一点の迷いもなくまっすぐ目を見て「君は照明の道に進むべきだ」と言ってくれたから。


ロケで訪れた廃病院で彼にそのことを伝えた。エキストラを150人も呼んで騒がしい一日だったのに雨上がりの裏庭にはわたしたち二人だけ。今も空気の匂いを思い出す。「わたし照明を目指すことにした。君のチームの強い女の子たちが勇気をくれたのと、あとは君が背を押してくれたからだよ」と言ったら彼は「本当に?やったーーー」と踊りだした。わたしにはこの時の会話が全部『ラ・ラ・ランド』みたいにミュージカルに見えたよ。マジックアワー、これって恋かな?


彼はどうしてわたしが照明に向いてると思ったんだろう。最初はどうせ顔が好みだからでしょと思ったけど、もしもわたしの地道な仕事っぷりを見ていてくれたならそのほうがずっとうれしい。もしくは彼はわたしのゆく道を照らすため神に派遣された天使という説もある。彼は映画学校できっちり理論を学んでから自主制作やインディーズ企画を経て最近メジャーに入ったので10個年下でも仕事では大先輩で、照明のことを一から教えてくれた。将来はDOP=撮影監督になるのが夢なんだって。


照明技師になるには他のほとんど全ての部署と同じで必ずしも映画学校を出る必要はないけれど、メジャー作品で働くためにはまずIATSE 891というユニオンの承認を得てメンバー候補生になる必要がある。一定の実績を認められた正式メンバーに仕事を振り分けるのが基本で、もしもそれでまかなえない場合に候補生にお呼びがかかる事がある。今シーズンBC州のFilm Industryは空前の忙しさでどの部署も全く人が足りておらず、とくに照明は候補生全員が駆り出されてもまだ足りない状態だという。この忙しさはきっとそう長くは続かないから転部するなら今しかない。波に乗り遅れないように大急ぎでユニオン候補生になるための条件を満たさなければならなかった。必須資格の半分はDGCの加入条件と被っているため既に持っておりなんとかなりそうだったけど、筆記試験にはずいぶん苦労した。とりあえず課題図書をオーダーしてみたもののあまりの分厚さ難しさに怖気づいてしまいAmazonに返品するかどうか本気で悩んだ。なんとこの本$70もしよる。例の彼がまた謎の説得力で「君は一発で受かるよ。信じて」と言ってくれなければ多分返品してた。なんなんだあいつは…。

大判600ページ超で「ハンドブック」を名乗っていいものか


色の温度という概念や各種ライトの特徴などは楽しく読めたけど、極端な文系のわたしには電気配線、電力電圧電流の計算、というかそもそも電球が光る仕組みがサッパリわからなかった。全問選択式の試験はどうにかやり過ごせたとしても、この辺りをきちんと理解しておかないとブレーカーが落ちたり超高額な機材を壊したり感電したりと実際に危険なのでYouTubeで子供の理科のビデオを見て学んだ。しかし学年トップクラスの成績(※文系科目のみ)のガリ勉優等生だったのは過去の栄光で、長年の飲酒と加齢のせいか今はいくら勉強しても翌日にはすべて忘れてしまう。月曜から金曜まで一日に15時間から18時間肉体労働をしているのでたった30分間睡眠時間を削って勉強に充てるだけでも健康のリスクである。でもやるんだよ!なぜなら美少年をがっかりさせるわけにいかないからな。毎日少しずつ彼との距離が近づくのがうれしかった。二人だけの合図が増えた。照明部のみんなも協力してくれて暇を見つけては「チイチイこれは何だっけ?…違う!もっと勉強しなさい!」と練習問題を出してくれた。

仕事の合間を見計らってセットの隅で勉強

結局一ヶ月くらい猛勉強して試験に臨み、一発合格することができた。合格点は平常時は80点だけど今はとにかく人が足りないということで70点に下げられていた。わたしは82点でした。あぶねー。残りの資格を取り終えユニオンに申し込みのメールを送り、審査に受かれば候補生リストに上がり仕事のオファーが来る可能性がある。カナダでは基本的に時間がゆっくり流れているのでこのプロセスに相当な時間がかかるかもしれないと予測していた。2週間か、一ヶ月か。それまではPAとしてのんびり頑張ろうと思っていたら…!申し込み翌日から「今日、今から来れないか」みたいな電話がどんどんかかってくる!あわあわあわ。人が足りなすぎて選考期間をすっとばして応募者からも雇っているようだ。すでにブックされたPAの仕事を放り出すわけにもいかないのでその週のシフトはやりきり、翌週からの予定を全てキャンセルし照明のオファーに備えることにした。この業界は役者と監督とプロデューサー以外すべて日雇いベースで、スケジュールに関する契約書は無いのでたとえ企画まるごとの約束であっても明日明後日に辞めることは事実上可能である。当然チームには迷惑がかかるし、未経験からここまで育ててもらったボスの事を考えると心苦しくても、二度訪れるかはわからないチャンスを逃すわけにいかなかった。同番組の照明部にそのまま入って1997年生まれの美少年や強い女の子たちと働くのが夢だったけど、レギュラーメンバーも準レギュラーもがっちり決まってしまっているためすぐには難しいという雰囲気だった。しばらく外に出てみて経験を積み、タイミングが合えば合流できる可能性は十分にある。エピソード追加が決まって撮影は4ヶ月延長されることになった。

こうしてわたしはNancy Drew Season 1から離れることになった。ロケーション部の代表として自分の番組という意識もあったし、今までにないくらいクルーとの繋がりも強くなってきたところなので本当にさみしい。1997年生まれの美少年のせいで夢を持って、もっと彼のそばにいたい一心でがんばってきたのに結果離れ離れになってしまうなんて皮肉だね。

毎週水曜CWネットワークで放映中
観てね!

初めて仕事させてもらったDeadly Classの時からずっと一緒のロケーション部ファミリーともしばし(次の飲み会まで)お別れ。みんなもぼちぼち転部を目指して動き出してる。お互いもっと大きくなってまた一緒に仕事しようね。

もう片方のKeyのアリーシャ。まさに戦友。
ガチ喧嘩もよくしたけど。

だんご3兄弟

これからひとりぼっち、誰も知らない新しい世界でうまくやっていけるだろうか。自分の居場所、心地よい場所を離れるのは簡単なことではないけれど、そこから一歩踏み出すことで成長できるんだ。

それにしても1997年生まれの美少年とはいったい何だったのか?最後の日、泣きそうになるのをこらえながら「不安だわあ」と言ったら「大丈夫、君ならやっていける、I'm happy for you」だって。えー、それだけ?あれだけ思わせぶりな態度をしておいてなぜデートに誘ってこないのか…連絡もほとんどよこさないし(妙なところでプライドが高いというか常に優位に立っていたいので自分からアクションを起こすのは絶対にイヤ笑)。つーか10個も年離れてて恋とかないよね。単に「あの子ポテンシャル高いのにPAじゃもったいないな」と思っただけなのかな?いやあの視線の絡ませ方、脈アリエピソードの数々(割愛)で恋愛感情無いってことはありえないけど。じゃあもしも恋愛感情あったとしたらわたしはどうしたいのか?この先何十年も照明という同じフィールドで戦っていく仲間なんだから絶対に関係をこじらせたくない。だけどだけど彼の22歳とは思えない思慮深さと、映画の趣味の良さと、全てを見透かすような目と、謎の説得力と、白い頬と、ふわっとした細い毛と…しかし付き合えるわけでもないのに、つーか別に付き合いたくはないし、いったいわたしはどうしたらいいのかどうしたいのか…以下堂々巡り。

ずいぶん前から恋愛はパターン化していて、最近も2年付き合った元彼と「またこれか」という調子で別れたところだったので、自分にもまだこういう悶々と考えこんだり小さいことで一喜一憂したりする中3レベルの恋心があることに驚かされた。わたしの行く末をあっさり変えてしまった人。まったくなんてやつだ。

2019/07/09

仕事の鬼

4月の終わりから冬眠状態の続いたBC州film industryですが7月に入り徐々に息を吹き返し、史上最大に忙しい夏がやってくるとみんなが噂している。有能なPA=プロダクション・アシスタントの囲い込みはすでに始まっていて、わたしも7月の終わりからクリスマス休暇挟んで来年初春まで、3月にやったPilot以来のshow-call(シーズン通しで働くレギュラーメンバー)でブッキングされております。現場実績が150日間に届けばユニオンの正式メンバーになれる。いま110日くらいなのであともう少し!


現場職はプロデューサーや監督やDOPなど要するに最重要人物とケータリング業者以外はみんな日雇いまたは週単位での契約なので、偉い人でも平気でプロジェクトの最中にバケーションを取ったり即日クビになったりする。全員フリーター状態で万が一の時はMSP(国保)やEI(失業保険)など国の制度を利用するしかない。しかしユニオン=労働組合に所属すれば普通の会社員のように社会保険やリタイアメントプランに加入することができる。給料は同じ、フリーランスなのも同じで仕事が保証されるわけではないけど、優先的に仕事を振らないといけない決まりがあったり会員だけが閲覧できる先取り情報がある。ユニオンは部署ごとに5つあって加入しないと仕事が始められないポジションもある一方(インディーズ企画やCM除く)、平のPAについては完全に個人の裁量に任されている。実際はPAでユニオンに入ってる人はほとんどいない。なぜならわざとハードルを高くして入りづらくしてあるのでとにかく面倒で会費も安くないから。しかも苦労してやっと正式メンバーになれたとしてももし別の部署に転部したくなった場合にはまた別のユニオンの加入条件をクリアするためにイチからやり直しになる。メンバーシップは部署を移っても無効にはならないし複数のユニオンに所属することもできるがそれぞれ会費がかかる。

ユニオン志望者が提出する日誌(一日でも書き忘れたら無効)
今どき手書きの日誌って嫌がらせとしか思えない

PAが所属できるDGC: Directors Guild of Canadaは監督、AD、コーディネーター職のためのユニオンなのでこの部門でキャリアを積みたいのでなければ加入する意味がないと考える人が多い。だいぶ上の方まで昇進してやっと他の部署(照明とか音声とか衣装とか)の見習い一日目のお給料に届くなど最も報われない部署なのもあり、エントリーレベルポジションであるPAを足がかりにして転部しようとしている人がほとんどなのが現状。しかし短期間で転部が決まるラッキーなケースは稀で、なんだかんだで2年3年とPAを続ける羽目になり結局ユニオンに入っておけばよかったと後悔する人は多い。わたしも今の部門に留まるつもりはもともと無かったけど、最初からDGC加入を最初の目標にしてこつこつやってきた。とりあえず目に見える目標があるとがんばれるから。必要な資格は全部最初にまとめて取ってしまい、以来ほぼ途切れないペースで仕事できているので最短期間でメンバーになれそう。もともと人の紹介で業界に入って(どの部署も紹介がないと入れないのだが)、奇跡的な縁でバンクーバーのこの分野で一番名の高い先輩達と一緒に仕事をさせてもらっているので、ユニオンに入ることで今までお世話になった人達に対して一種のけじめというか本気だということを証明したかったのもある。まあ保険でレーシックしたい気軽に歯医者や整体に行きたいというのが最大の志望理由なんだけど笑。転部するまでの間所属できる機関があると安心だし。

PAって具体的に何してるの?とよく聞かれるんだけど「言われたことを何でもする」としか言いようがない。大きく分けるとPrep Wrap crewとShoot crewの2つがあり、わたしは主にShootをやるけどたまにPrep Wrapも手伝うことがある。Prepは前日までにロケ地の下準備をするチームのことで、Wrapは撮影後に原状回復するチームのこと。ロケ地のオーナーとの連携の関係もあり同じ人達がやった方が話が早い。Prep WrapはShootと給料同じなのに圧倒的にラク。Prepは朝7時に集まって養生を済ませたら後は大道具さんなどが働いてるのを見守り、機材トラックのために借りたスペースを違法駐車に取られないように監視し、たまに進行状況をオフィスに報告しつつ勝手に休憩を取って終わったら帰る。Wrapは掃除がメインだけど他の部署のものは触ってはいけない決まりだし細かいところは清掃業者に委託するのでみんなが働くのを見てるだけ。一日の大半を座ってボーッとするか雑談するかして過ごす。大してやることもないので最大で12時間、運が良ければ4時間くらいで帰れることもある。15時間立ちっぱなしで心身すり減らして働いた時と同じ日給(本当は8時間以下は給料違うけどほぼ必ずおまけしてもらえる)。なのでこれを専門に活動しているPAもいるけど、スタジオ撮影の時は出番がないので仕事にあぶれやすい。また他の部署との関わりが最小限になるので出世は遅くなる。

歴史的建造物を傷つけないよう細心の注意を払う

撮影本番Shooting crewの時はPAは誰よりも早く現場に着き誰よりも遅くまで残るので15時間以内に終わることはまずありえない。15時間を超過すると残業代が出る。最低でも集合30分前に現場にいるのが暗黙のルールで通勤含めると拘束時間は17時間くらい。Show-callの時はこれを週5日か6日×3ヶ月〜半年やる…!現場に着いたらまずケータリングで朝ごはんを食べてからクルー駐車場の案内をする係と設営係に分かれる。駐車場/ サーカス(楽屋や事務所トレーラーが並ぶベースキャンプ)とセットは別の場所にある場合が多いのでロケバスで移動。

サーカスの様子
こういうのもPAが設営する

ゴミ箱とテントを一通り設置し終わったら持ち場に割り振られ、基本的には警備員か清掃員か交通整理係員のようなことをする。PAを取りまとめるKey PAはすべてのエリアに誰か配置し、そこで何か問題があった時には無線で指示を出す。よく全員の名前と担当エリア覚えられるなといつも感心する。肝心な時に担当の者がいないと困るのでトイレや軽食などで持ち場を離れる時はspell offといって代理係に一時的に持ち場を任せ、用事が終わったら速やかに戻る。実際に撮影が行われるセットに近い場所にレギュラーメンバーを、遠い場所にday-callと呼ばれる補欠メンバーを充てることが多い。カメラが回っている間にクルーに静かにするように促したり、警察と協力して通行人や交通をストップしたり、誰かが勝手にドアを開けて入ってこないよう見張ったりする。今はほとんどデジタル撮影とはいえショットに必要ないものが写り込んだり雑音が入ってしまうというような初歩的なミスは許されない。今は何をしていて次にどういうショットを撮って何が起こるのかは無線で実況されるので常に注意をはらい、わからない時は聞く。無線での応答は大勢のクルーに聞かれていて直接評価に関わり、連続でトチると干される。逆に効果的な応答ができれば一目置かれて補欠メンバーからレギュラーに、レギュラーからAD見習いにと昇進できるチャンスでもある。ジョークはいいタイミングで言えれば好印象だけど汚い言葉を使ったら干される。このマイクパフォーマンスが英語が母語でないわたしにとってはとても難しい。 独特の専門用語にはすぐ慣れたけど。

"Copy that=了解"

あとはクルーに頼まれたことを何でもやる、一時的に荷物を見張ったりお水を配ったり無線でロケバスを召喚したりパイプ椅子や机を手配したり、冬ならプロパンヒーターのリクエストが多い。備品や撮影機材は高価なので絶対に目を離してはならない。設営と撤収はひたすら力仕事だけどその間は割とのんびりできる時間もある。なので休憩時間はない。身体や気持ちが辛いときはKey PAに相談して個別に休憩をアレンジしてもらう。食事はセルフサービスの軽食ステーションに加えて朝食、サンドイッチ、昼食、夜食の4回ケータリングサービスがあり、めっっっちゃくちゃ豪華。だって出演者が食べるのと同じメニューだもん。しかしPAは持ち場に持ち帰って仕事をしながら食べる。座って食べられることはほとんどない。雨や雪が降っていても同じ。


PAは業界の最底辺であり、とにかくキツいし全然かっこいい仕事ではないけれどわたしたちがいなければ現場は回らないので偉い人も同じチームの仲間としてリスペクトしてくれる、偉い人ほどリスペクトしてくれる。フリーランスの仕事の奪い合いは競争が激しく、たとえば6月は仕事待ちをしているPAのリストに300人が書き込んでいた。わたしは仕事を始めた最初の月以降そこに書き込んだことがない。失業保険があるので別に無理に働かなくてもいいと思ってるのと笑、ソリッドなコネがあるのと、評判が良く勝手にみんながあちこちで推薦してくれるから。なぜ評判が良いかというと仕事をナメてないからじゃないかな?たぶん。あとよく言われるのはいつも機嫌が良さそうだから居ると現場の雰囲気が和らぐ、とかです。マスコット的な扱いなのね…。

交通整理をするのにはもちろん資格が必要です
これもユニオン参加条件のひとつ
撮影中はお静かに!みんなよくそんなに喋るネタが
あるなっていうくらいオシャベリだから大変

弁当を配る係だった時。
頼まれたら何でもやる

わたしがこれまでに関わった仕事を紹介します。数日手伝っただけの企画除く。Show-callで映画をやるとPAでもエンドクレジットに名前が載るんだけどまだやったことないのよ。これは次の目標で、今年はもう全部スケジュール埋まってるので来年中に実現したい。ドラマと映画はどっちが偉いとかは無いです、給料も同じだし。どの作品をやるかよりも誰と仕事するかどうかの方が大事で、基本は人に誘われるままくっついて行くだけ。PAはもちろんのこと現場で働くクルーの99%はクリエイティブな決定権を持たずただ言われたことをやるだけなので、この作品がやりたいとかは特に無い。しいていえばロケ地が近い作品がいいなというくらいかね。大自然を舞台にした話とかだとやっぱ遠征が多くなるんで都会の話がいいな、みたいな。しかし正直割に合わない仕事でもそこで出会った誰かの縁が次に繋がったりするので基本的にお誘いは断らないようにしている。複数オファーがあった時は先着順。

Deadly Class Season 1 初仕事でいきなりshow-callだったので第二話以降ほぼすべての日程に関わった。わたしの原点であり特別な作品。現場の様子は前にブログに書いた。原作ファンからもすごく評判が良かったのに熱い声援もむなしく打ち切りが決定、Season 2に進むことはできませんでした…。期待を込めて大道具や衣装など全部倉庫に取ってあったみたいなんだけど残念。

See Season 1 今秋ローンチするAppleの動画配信サービスの目玉作品。ジェイソン・モモア主演。BC州の歴史上最大規模の予算をかけたといわれる超大作。悪天候&気温氷点下の山奥で過酷なロケが続きレギュラーメンバーは何ヶ月もホテル住まいだったらしい。わたしは3週間ほど働いたけど膝を痛めてしまい離脱。負傷者続出、極寒の山を生き抜くためエネルギーが必要なのにケータリングが不味すぎて何も食べられないなど悪夢のようなショーであった。熊除けスプレーも渡された。

遠くて寒くて暗くてお腹空いて泣きそうなわたし
in トイレ

Republic of Sarah Pilot 『(500)日のサマー』のマーク・ウェブ監督と一緒に仕事ができて感無量。二週間、全日程遠征でBC州津々浦々旅をしながら撮った。馴染みのチームと一緒だったので超楽しかったしけっこういいホテルに泊まらせてもらって修学旅行気分。田舎町Agassizで撮影したときの様子が地元ニュースになった時の記事→こちら。パイロット回というのは配給会社にプレゼンするために製作するドラマの第0話で、これを気に入って買い取ってもらえばシーズン1を撮ることができる。買い取ってもらえなければお蔵入り。お金にならない企画は日の目を見ないシビアな世界。


Coffee and Kareem Netflix製作のアクション/コメディ映画 。夢にまで見た映画の現場はドラマの現場と全く同じでした。合わせて一週間ちょい助っ人しただけだったけど爆発やカーチェイスが多くて面白かった。『ハングオーバー!』で歯科医役だったEdさん主演。役者の本名と役名はわたしは必ずimdbで予習するけど普通はPAはそこまではしないと思う。

Beverly Hills, 90210 オリジナルキャストによるリブート企画で90年代の青春が戻ってくる!ノースバンクーバーで撮影真っ最中。PAで少し参加してからパパラッチ対策本部に引き抜かれた。パパラッチやファンが出待ちをするような番組は初めて(ジェイソン・モモアが出てるSeeはロケが僻地すぎて追っ手も来れなかった)。少し目を離すとすぐフラフラどっかに行ってしまうキャストやそのご子息やワンコを守るため走って追いかける日々。


今後はKey PAに挑戦してさらにTAD(AD研修生)、ゆくゆくはADを目指すことも可能といえば可能なんだけどわたしは平のPAに留まって転部活動に集中するつもりです。そして35歳までに年収$100k=1000万円稼げるようになる!しかし自分が正確には何歳なのか忘れちゃったんだよね笑。たぶん30歳から33歳の間だと思うんだけど…。