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2020/03/17

IMDbに載りました

去年の暮れに照明のお手伝いをした短編作品の監督から連絡があり、世界最大の映画データベースIMDb (Internet Movie Database)にわたしのページを作ってもらいました。

https://www.imdb.com/name/nm11396355/?ref_=ttfc_fc_cr22

映像芸術に関わっているという自負さえあれば誰でも執筆編集できるものなので特にすごい事でもないんだけど、東京のビデオ屋や古本屋に入り浸って映画の事ばかり考えていた10代の頃には IMDbに載るなんて夢のまた夢だと感じていたから、わたしにとっては特別な意味がある。日本に生まれ育つことはdiscourageされる事の連続であり、面と向かってお前には無理だと言われたり、性別や年齢や容姿で差別されたり、「世の中そんなに甘くないよ」という社会の重圧に負けてしまいそうになるけど、そういう奴らを絶対に信じたらダメ。そしてさらに手強い「何にもなれやしない」とかいう自分自身の妄想に囚われたらダメ。そんなものには全く何の意味も根拠もないんだから。と、当時の自分に言ってあげたいです。英語とインターネットだけあればできないことは一つもない。Don't dream it, Be it. 夢など見るな、夢になれ。









2019/11/15

Shine a Light 照明部を目指して

映像のキャリアを始めた当初から目標にしていたDGC カナダ監督協会のメンバーになりました。ちょうど一年かかった。今やっている番組では実質Key(代表)としてチームを引っ張ってきて、規約に沿って会員ステータスが出次第正式にKeyの称号がもらえるという話だったんだけど、これを辞退して次の目標を目指すことにした。今は照明技師になるために着々と準備を進めています。


一年間ロケーション部プロダクション・アシスタント=PAとして働きながら他の部署の仕事ぶりを見せてもらってもあまりピンと来る事がなくて、特にやりたいわけでもないけどこのままなんとなくPAの進化形態であるAD方面かロケーションコーディネーター方面に進むことになるのかなとまるで他人事のように思っていた。だけど今回初めてリーダーシップを取る立場になってあまりにもチームのレベルが低すぎてがっかりする事が多く、この分野で全くヤル気のない人たちと仕事をするのが突然嫌になってしまった。PAは業界の最底辺で誰もやりたがらない地味な雑用を引き受けるポジションなので、新人は仕事ナメてるし長くやってる子たちは完全にjaded=不貞腐れてしまっている。

わたしはどんなに惨めでつらい日だっていじけずにがんばってきた。他の子達が座って居眠りをしたり携帯をいじったりしている横でしゃんと立って、何かサポート出来ることがないかいつも探してる。毎日ワクワクしてるし毎日感動してる。それは一年前と全く変わらない。You're only one person away from your dream(たった一人との出会いで夢は掴める)と言われる業界で、いつか誰かがきっとわたしに気づいて掬い上げてくれると信じていた。まさかそれが10個年下の男の子だとは思いもしなかったけれど。

交通整理してたらみんなにカワイイと
褒められまくってご機嫌の千尋さん

わたしはこの番組のクランクインから参加していて、照明部の彼はたしか第3話くらいから合流してきた。面識ないし自己紹介もしてないのに一日に何度も無言でフィストバンプ(グーの手を合わせる挨拶)の手を差し出してきたり、すれ違いざまにスッと手を触ってきたりするので「やれやれまたわたしのファンか」と思っていた。Film Industryに従事するものはそうでない人には理解しがたい異常なスケジュールのせいで圧倒的にシングルの人が多く、みんな隙あらばと職場で出会いを探している。そして案の定こじれて仕事に支障が出ている。

気がつけばずーーーーっとこっちを見ている彼がついに話しかけてきたと思ったら!「チイチイさ、照明に来ない?絶対向いてると思うんだ」とな。いや誰かが呼んでるの聞いてわたしの名前知ったのかもしれないけどこっちは名前知らないし、向いてると思うってわたしの事なんも知らないだろうが!つーかどう見てもハタチか下手したら18歳くらいの赤ん坊のくせに何様なんだ?と思ってまじまじ見たらけっこう綺麗な顔をしているのだった…。その後も彼は毎日恥ずかしくなるくらいずっとこっちを見ていて目が合うと顎をクイッと上げて合図したりはにかんだ笑顔をくれた。一週間後くらいにまた「それで、いつ僕らと一緒に働きはじめられそう?」と聞いてきたので「身体が小さいし力がないから無理だと思う」と言うと彼は「身体の大きさは関係ない、ちゃんと鍛えてコツを掴めば重いものは持ち上がる。うちの女の子たちを見てみなよ」と言った。「中でも僕の親友の○○ちゃんなんかチームの要だし、badassでかっこいいでしょ。」

この一年間、数日助っ人したようなのも含めると10個くらいの企画に参加したけど女性の照明技師を見たのは今回が初めてだった。しかも3人もいる、しかも身長がわたしと同じくらい小さい子ばかり、しかもしかもその彼の親友ちゃんはアジア人。照明チームの半数が女の子というのは業界長い人に聞いても前代未聞だという。2019年になってもこの業界は圧倒的な男社会で現場にいるのはヘアメイクさんや衣装さんも含めて男だらけ。中でも照明は電気技師を兼ね、高電圧の熱くて重い機材を扱う部門なので伝統的に男の仕事と考えられてきた。それに、「白すぎるハリウッド」というのは本当で業界のダイバーシティの無さに最初は戸惑った。多民族の街バンクーバーで職員の99%が白人の職場なんて普通はありえない。露骨に外人扱いされるのも初めてだった。役者とそのスタントを除けば有色人種はいつも自分だけで、奇跡的にアジア人を見かけた日にゃポジション関係なくお互い駆け寄って「同胞よ…」と熱いハグよ。

だから照明部エースのアジア人女性の存在は衝撃的だった。自分と似た属性の人が活躍している姿はダイレクトに希望になる。You can't be what you can't see(見えない何かを目指すことはできない)とはよくいったものだ。いま映画やドラマでやっと白人男性以外の物語が語られるようになってきているのは本当に大きな意味のあることだと思う。女だから、肌の色が違うから出来ない仕事なんかカナダにはない。出来るか出来ないか決めるのは自分自身。たとえ人の何倍もの努力をしなければ認めてもらえなかったとしても、やってやろうと覚悟できたのはロールモデルがいてくれたから。そして1997年生まれ(※FBで調べた)の美少年が一点の迷いもなくまっすぐ目を見て「君は照明の道に進むべきだ」と言ってくれたから。


ロケで訪れた廃病院で彼にそのことを伝えた。エキストラを150人も呼んで騒がしい一日だったのに雨上がりの裏庭にはわたしたち二人だけ。今も空気の匂いを思い出す。「わたし照明を目指すことにした。君のチームの強い女の子たちが勇気をくれたのと、あとは君が背を押してくれたからだよ」と言ったら彼は「本当に?やったーーー」と踊りだした。わたしにはこの時の会話が全部『ラ・ラ・ランド』みたいにミュージカルに見えたよ。マジックアワー、これって恋かな?


彼はどうしてわたしが照明に向いてると思ったんだろう。最初はどうせ顔が好みだからでしょと思ったけど、もしもわたしの地道な仕事っぷりを見ていてくれたならそのほうがずっとうれしい。もしくは彼はわたしのゆく道を照らすため神に派遣された天使という説もある。彼は映画学校できっちり理論を学んでから自主制作やインディーズ企画を経て最近メジャーに入ったので10個年下でも仕事では大先輩で、照明のことを一から教えてくれた。将来はDOP=撮影監督になるのが夢なんだって。


照明技師になるには他のほとんど全ての部署と同じで必ずしも映画学校を出る必要はないけれど、メジャー作品で働くためにはまずIATSE 891というユニオンの承認を得てメンバー候補生になる必要がある。一定の実績を認められた正式メンバーに仕事を振り分けるのが基本で、もしもそれでまかなえない場合に候補生にお呼びがかかる事がある。今シーズンBC州のFilm Industryは空前の忙しさでどの部署も全く人が足りておらず、とくに照明は候補生全員が駆り出されてもまだ足りない状態だという。この忙しさはきっとそう長くは続かないから転部するなら今しかない。波に乗り遅れないように大急ぎでユニオン候補生になるための条件を満たさなければならなかった。必須資格の半分はDGCの加入条件と被っているため既に持っておりなんとかなりそうだったけど、筆記試験にはずいぶん苦労した。とりあえず課題図書をオーダーしてみたもののあまりの分厚さ難しさに怖気づいてしまいAmazonに返品するかどうか本気で悩んだ。なんとこの本$70もしよる。例の彼がまた謎の説得力で「君は一発で受かるよ。信じて」と言ってくれなければ多分返品してた。なんなんだあいつは…。

大判600ページ超で「ハンドブック」を名乗っていいものか


色の温度という概念や各種ライトの特徴などは楽しく読めたけど、極端な文系のわたしには電気配線、電力電圧電流の計算、というかそもそも電球が光る仕組みがサッパリわからなかった。全問選択式の試験はどうにかやり過ごせたとしても、この辺りをきちんと理解しておかないとブレーカーが落ちたり超高額な機材を壊したり感電したりと実際に危険なのでYouTubeで子供の理科のビデオを見て学んだ。しかし学年トップクラスの成績(※文系科目のみ)のガリ勉優等生だったのは過去の栄光で、長年の飲酒と加齢のせいか今はいくら勉強しても翌日にはすべて忘れてしまう。月曜から金曜まで一日に15時間から18時間肉体労働をしているのでたった30分間睡眠時間を削って勉強に充てるだけでも健康のリスクである。でもやるんだよ!なぜなら美少年をがっかりさせるわけにいかないからな。毎日少しずつ彼との距離が近づくのがうれしかった。二人だけの合図が増えた。照明部のみんなも協力してくれて暇を見つけては「チイチイこれは何だっけ?…違う!もっと勉強しなさい!」と練習問題を出してくれた。

仕事の合間を見計らってセットの隅で勉強

結局一ヶ月くらい猛勉強して試験に臨み、一発合格することができた。合格点は平常時は80点だけど今はとにかく人が足りないということで70点に下げられていた。わたしは82点でした。あぶねー。残りの資格を取り終えユニオンに申し込みのメールを送り、審査に受かれば候補生リストに上がり仕事のオファーが来る可能性がある。カナダでは基本的に時間がゆっくり流れているのでこのプロセスに相当な時間がかかるかもしれないと予測していた。2週間か、一ヶ月か。それまではPAとしてのんびり頑張ろうと思っていたら…!申し込み翌日から「今日、今から来れないか」みたいな電話がどんどんかかってくる!あわあわあわ。人が足りなすぎて選考期間をすっとばして応募者からも雇っているようだ。すでにブックされたPAの仕事を放り出すわけにもいかないのでその週のシフトはやりきり、翌週からの予定を全てキャンセルし照明のオファーに備えることにした。この業界は役者と監督とプロデューサー以外すべて日雇いベースで、スケジュールに関する契約書は無いのでたとえ企画まるごとの約束であっても明日明後日に辞めることは事実上可能である。当然チームには迷惑がかかるし、未経験からここまで育ててもらったボスの事を考えると心苦しくても、二度訪れるかはわからないチャンスを逃すわけにいかなかった。同番組の照明部にそのまま入って1997年生まれの美少年や強い女の子たちと働くのが夢だったけど、レギュラーメンバーも準レギュラーもがっちり決まってしまっているためすぐには難しいという雰囲気だった。しばらく外に出てみて経験を積み、タイミングが合えば合流できる可能性は十分にある。エピソード追加が決まって撮影は4ヶ月延長されることになった。

こうしてわたしはNancy Drew Season 1から離れることになった。ロケーション部の代表として自分の番組という意識もあったし、今までにないくらいクルーとの繋がりも強くなってきたところなので本当にさみしい。1997年生まれの美少年のせいで夢を持って、もっと彼のそばにいたい一心でがんばってきたのに結果離れ離れになってしまうなんて皮肉だね。

毎週水曜CWネットワークで放映中
観てね!

初めて仕事させてもらったDeadly Classの時からずっと一緒のロケーション部ファミリーともしばし(次の飲み会まで)お別れ。みんなもぼちぼち転部を目指して動き出してる。お互いもっと大きくなってまた一緒に仕事しようね。

もう片方のKeyのアリーシャ。まさに戦友。
ガチ喧嘩もよくしたけど。

だんご3兄弟

これからひとりぼっち、誰も知らない新しい世界でうまくやっていけるだろうか。自分の居場所、心地よい場所を離れるのは簡単なことではないけれど、そこから一歩踏み出すことで成長できるんだ。

それにしても1997年生まれの美少年とはいったい何だったのか?最後の日、泣きそうになるのをこらえながら「不安だわあ」と言ったら「大丈夫、君ならやっていける、I'm happy for you」だって。えー、それだけ?あれだけ思わせぶりな態度をしておいてなぜデートに誘ってこないのか…連絡もほとんどよこさないし(妙なところでプライドが高いというか常に優位に立っていたいので自分からアクションを起こすのは絶対にイヤ笑)。つーか10個も年離れてて恋とかないよね。単に「あの子ポテンシャル高いのにPAじゃもったいないな」と思っただけなのかな?いやあの視線の絡ませ方、脈アリエピソードの数々(割愛)で恋愛感情無いってことはありえないけど。じゃあもしも恋愛感情あったとしたらわたしはどうしたいのか?この先何十年も照明という同じフィールドで戦っていく仲間なんだから絶対に関係をこじらせたくない。だけどだけど彼の22歳とは思えない思慮深さと、映画の趣味の良さと、全てを見透かすような目と、謎の説得力と、白い頬と、ふわっとした細い毛と…しかし付き合えるわけでもないのに、つーか別に付き合いたくはないし、いったいわたしはどうしたらいいのかどうしたいのか…以下堂々巡り。

ずいぶん前から恋愛はパターン化していて、最近も2年付き合った元彼と「またこれか」という調子で別れたところだったので、自分にもまだこういう悶々と考えこんだり小さいことで一喜一憂したりする中3レベルの恋心があることに驚かされた。わたしの行く末をあっさり変えてしまった人。まったくなんてやつだ。

2019/07/09

仕事の鬼

4月の終わりから冬眠状態の続いたBC州film industryですが7月に入り徐々に息を吹き返し、史上最大に忙しい夏がやってくるとみんなが噂している。有能なPA=プロダクション・アシスタントの囲い込みはすでに始まっていて、わたしも7月の終わりからクリスマス休暇挟んで来年初春まで、3月にやったPilot以来のshow-call(シーズン通しで働くレギュラーメンバー)でブッキングされております。現場実績が150日間に届けばユニオンの正式メンバーになれる。いま110日くらいなのであともう少し!


現場職はプロデューサーや監督やDOPなど要するに最重要人物とケータリング業者以外はみんな日雇いまたは週単位での契約なので、偉い人でも平気でプロジェクトの最中にバケーションを取ったり即日クビになったりする。全員フリーター状態で万が一の時はMSP(国保)やEI(失業保険)など国の制度を利用するしかない。しかしユニオン=労働組合に所属すれば普通の会社員のように社会保険やリタイアメントプランに加入することができる。給料は同じ、フリーランスなのも同じで仕事が保証されるわけではないけど、優先的に仕事を振らないといけない決まりがあったり会員だけが閲覧できる先取り情報がある。ユニオンは部署ごとに5つあって加入しないと仕事が始められないポジションもある一方(インディーズ企画やCM除く)、平のPAについては完全に個人の裁量に任されている。実際はPAでユニオンに入ってる人はほとんどいない。なぜならわざとハードルを高くして入りづらくしてあるのでとにかく面倒で会費も安くないから。しかも苦労してやっと正式メンバーになれたとしてももし別の部署に転部したくなった場合にはまた別のユニオンの加入条件をクリアするためにイチからやり直しになる。メンバーシップは部署を移っても無効にはならないし複数のユニオンに所属することもできるがそれぞれ会費がかかる。

ユニオン志望者が提出する日誌(一日でも書き忘れたら無効)
今どき手書きの日誌って嫌がらせとしか思えない

PAが所属できるDGC: Directors Guild of Canadaは監督、AD、コーディネーター職のためのユニオンなのでこの部門でキャリアを積みたいのでなければ加入する意味がないと考える人が多い。だいぶ上の方まで昇進してやっと他の部署(照明とか音声とか衣装とか)の見習い一日目のお給料に届くなど最も報われない部署なのもあり、エントリーレベルポジションであるPAを足がかりにして転部しようとしている人がほとんどなのが現状。しかし短期間で転部が決まるラッキーなケースは稀で、なんだかんだで2年3年とPAを続ける羽目になり結局ユニオンに入っておけばよかったと後悔する人は多い。わたしも今の部門に留まるつもりはもともと無かったけど、最初からDGC加入を最初の目標にしてこつこつやってきた。とりあえず目に見える目標があるとがんばれるから。必要な資格は全部最初にまとめて取ってしまい、以来ほぼ途切れないペースで仕事できているので最短期間でメンバーになれそう。もともと人の紹介で業界に入って(どの部署も紹介がないと入れないのだが)、奇跡的な縁でバンクーバーのこの分野で一番名の高い先輩達と一緒に仕事をさせてもらっているので、ユニオンに入ることで今までお世話になった人達に対して一種のけじめというか本気だということを証明したかったのもある。まあ保険でレーシックしたい気軽に歯医者や整体に行きたいというのが最大の志望理由なんだけど笑。転部するまでの間所属できる機関があると安心だし。

PAって具体的に何してるの?とよく聞かれるんだけど「言われたことを何でもする」としか言いようがない。大きく分けるとPrep Wrap crewとShoot crewの2つがあり、わたしは主にShootをやるけどたまにPrep Wrapも手伝うことがある。Prepは前日までにロケ地の下準備をするチームのことで、Wrapは撮影後に原状回復するチームのこと。ロケ地のオーナーとの連携の関係もあり同じ人達がやった方が話が早い。Prep WrapはShootと給料同じなのに圧倒的にラク。Prepは朝7時に集まって養生を済ませたら後は大道具さんなどが働いてるのを見守り、機材トラックのために借りたスペースを違法駐車に取られないように監視し、たまに進行状況をオフィスに報告しつつ勝手に休憩を取って終わったら帰る。Wrapは掃除がメインだけど他の部署のものは触ってはいけない決まりだし細かいところは清掃業者に委託するのでみんなが働くのを見てるだけ。一日の大半を座ってボーッとするか雑談するかして過ごす。大してやることもないので最大で12時間、運が良ければ4時間くらいで帰れることもある。15時間立ちっぱなしで心身すり減らして働いた時と同じ日給(本当は8時間以下は給料違うけどほぼ必ずおまけしてもらえる)。なのでこれを専門に活動しているPAもいるけど、スタジオ撮影の時は出番がないので仕事にあぶれやすい。また他の部署との関わりが最小限になるので出世は遅くなる。

歴史的建造物を傷つけないよう細心の注意を払う

撮影本番Shooting crewの時はPAは誰よりも早く現場に着き誰よりも遅くまで残るので15時間以内に終わることはまずありえない。15時間を超過すると残業代が出る。最低でも集合30分前に現場にいるのが暗黙のルールで通勤含めると拘束時間は17時間くらい。Show-callの時はこれを週5日か6日×3ヶ月〜半年やる…!現場に着いたらまずケータリングで朝ごはんを食べてからクルー駐車場の案内をする係と設営係に分かれる。駐車場/ サーカス(楽屋や事務所トレーラーが並ぶベースキャンプ)とセットは別の場所にある場合が多いのでロケバスで移動。

サーカスの様子
こういうのもPAが設営する

ゴミ箱とテントを一通り設置し終わったら持ち場に割り振られ、基本的には警備員か清掃員か交通整理係員のようなことをする。PAを取りまとめるKey PAはすべてのエリアに誰か配置し、そこで何か問題があった時には無線で指示を出す。よく全員の名前と担当エリア覚えられるなといつも感心する。肝心な時に担当の者がいないと困るのでトイレや軽食などで持ち場を離れる時はspell offといって代理係に一時的に持ち場を任せ、用事が終わったら速やかに戻る。実際に撮影が行われるセットに近い場所にレギュラーメンバーを、遠い場所にday-callと呼ばれる補欠メンバーを充てることが多い。カメラが回っている間にクルーに静かにするように促したり、警察と協力して通行人や交通をストップしたり、誰かが勝手にドアを開けて入ってこないよう見張ったりする。今はほとんどデジタル撮影とはいえショットに必要ないものが写り込んだり雑音が入ってしまうというような初歩的なミスは許されない。今は何をしていて次にどういうショットを撮って何が起こるのかは無線で実況されるので常に注意をはらい、わからない時は聞く。無線での応答は大勢のクルーに聞かれていて直接評価に関わり、連続でトチると干される。逆に効果的な応答ができれば一目置かれて補欠メンバーからレギュラーに、レギュラーからAD見習いにと昇進できるチャンスでもある。ジョークはいいタイミングで言えれば好印象だけど汚い言葉を使ったら干される。このマイクパフォーマンスが英語が母語でないわたしにとってはとても難しい。 独特の専門用語にはすぐ慣れたけど。

"Copy that=了解"

あとはクルーに頼まれたことを何でもやる、一時的に荷物を見張ったりお水を配ったり無線でロケバスを召喚したりパイプ椅子や机を手配したり、冬ならプロパンヒーターのリクエストが多い。備品や撮影機材は高価なので絶対に目を離してはならない。設営と撤収はひたすら力仕事だけどその間は割とのんびりできる時間もある。なので休憩時間はない。身体や気持ちが辛いときはKey PAに相談して個別に休憩をアレンジしてもらう。食事はセルフサービスの軽食ステーションに加えて朝食、サンドイッチ、昼食、夜食の4回ケータリングサービスがあり、めっっっちゃくちゃ豪華。だって出演者が食べるのと同じメニューだもん。しかしPAは持ち場に持ち帰って仕事をしながら食べる。座って食べられることはほとんどない。雨や雪が降っていても同じ。


PAは業界の最底辺であり、とにかくキツいし全然かっこいい仕事ではないけれどわたしたちがいなければ現場は回らないので偉い人も同じチームの仲間としてリスペクトしてくれる、偉い人ほどリスペクトしてくれる。フリーランスの仕事の奪い合いは競争が激しく、たとえば6月は仕事待ちをしているPAのリストに300人が書き込んでいた。わたしは仕事を始めた最初の月以降そこに書き込んだことがない。失業保険があるので別に無理に働かなくてもいいと思ってるのと笑、ソリッドなコネがあるのと、評判が良く勝手にみんながあちこちで推薦してくれるから。なぜ評判が良いかというと仕事をナメてないからじゃないかな?たぶん。あとよく言われるのはいつも機嫌が良さそうだから居ると現場の雰囲気が和らぐ、とかです。マスコット的な扱いなのね…。

交通整理をするのにはもちろん資格が必要です
これもユニオン参加条件のひとつ
撮影中はお静かに!みんなよくそんなに喋るネタが
あるなっていうくらいオシャベリだから大変

弁当を配る係だった時。
頼まれたら何でもやる

わたしがこれまでに関わった仕事を紹介します。数日手伝っただけの企画除く。Show-callで映画をやるとPAでもエンドクレジットに名前が載るんだけどまだやったことないのよ。これは次の目標で、今年はもう全部スケジュール埋まってるので来年中に実現したい。ドラマと映画はどっちが偉いとかは無いです、給料も同じだし。どの作品をやるかよりも誰と仕事するかどうかの方が大事で、基本は人に誘われるままくっついて行くだけ。PAはもちろんのこと現場で働くクルーの99%はクリエイティブな決定権を持たずただ言われたことをやるだけなので、この作品がやりたいとかは特に無い。しいていえばロケ地が近い作品がいいなというくらいかね。大自然を舞台にした話とかだとやっぱ遠征が多くなるんで都会の話がいいな、みたいな。しかし正直割に合わない仕事でもそこで出会った誰かの縁が次に繋がったりするので基本的にお誘いは断らないようにしている。複数オファーがあった時は先着順。

Deadly Class Season 1 初仕事でいきなりshow-callだったので第二話以降ほぼすべての日程に関わった。わたしの原点であり特別な作品。現場の様子は前にブログに書いた。原作ファンからもすごく評判が良かったのに熱い声援もむなしく打ち切りが決定、Season 2に進むことはできませんでした…。期待を込めて大道具や衣装など全部倉庫に取ってあったみたいなんだけど残念。

See Season 1 今秋ローンチするAppleの動画配信サービスの目玉作品。ジェイソン・モモア主演。BC州の歴史上最大規模の予算をかけたといわれる超大作。悪天候&気温氷点下の山奥で過酷なロケが続きレギュラーメンバーは何ヶ月もホテル住まいだったらしい。わたしは3週間ほど働いたけど膝を痛めてしまい離脱。負傷者続出、極寒の山を生き抜くためエネルギーが必要なのにケータリングが不味すぎて何も食べられないなど悪夢のようなショーであった。熊除けスプレーも渡された。

遠くて寒くて暗くてお腹空いて泣きそうなわたし
in トイレ

Republic of Sarah Pilot 『(500)日のサマー』のマーク・ウェブ監督と一緒に仕事ができて感無量。二週間、全日程遠征でBC州津々浦々旅をしながら撮った。馴染みのチームと一緒だったので超楽しかったしけっこういいホテルに泊まらせてもらって修学旅行気分。田舎町Agassizで撮影したときの様子が地元ニュースになった時の記事→こちら。パイロット回というのは配給会社にプレゼンするために製作するドラマの第0話で、これを気に入って買い取ってもらえばシーズン1を撮ることができる。買い取ってもらえなければお蔵入り。お金にならない企画は日の目を見ないシビアな世界。


Coffee and Kareem Netflix製作のアクション/コメディ映画 。夢にまで見た映画の現場はドラマの現場と全く同じでした。合わせて一週間ちょい助っ人しただけだったけど爆発やカーチェイスが多くて面白かった。『ハングオーバー!』で歯科医役だったEdさん主演。役者の本名と役名はわたしは必ずimdbで予習するけど普通はPAはそこまではしないと思う。

Beverly Hills, 90210 オリジナルキャストによるリブート企画で90年代の青春が戻ってくる!ノースバンクーバーで撮影真っ最中。PAで少し参加してからパパラッチ対策本部に引き抜かれた。パパラッチやファンが出待ちをするような番組は初めて(ジェイソン・モモアが出てるSeeはロケが僻地すぎて追っ手も来れなかった)。少し目を離すとすぐフラフラどっかに行ってしまうキャストやそのご子息やワンコを守るため走って追いかける日々。


今後はKey PAに挑戦してさらにTAD(AD研修生)、ゆくゆくはADを目指すことも可能といえば可能なんだけどわたしは平のPAに留まって転部活動に集中するつもりです。そして35歳までに年収$100k=1000万円稼げるようになる!しかし自分が正確には何歳なのか忘れちゃったんだよね笑。たぶん30歳から33歳の間だと思うんだけど…。

2018/12/20

Keep it Rollin' ちひろを止めるな!




PA(プロダクション・アシスタント)として初めてお仕事させて頂いたドラマ、Deadly Classが無事クランクアップしました。フリーランスの世界、最初はこれだけで食べていくのは難しいだろうからパートタイムの仕事でも見つけようとか考えてたんだけど、フタを開けてみたら超大忙しで3ヶ月間働き詰めだったよ。ユニオンの規定があるので一応毎日6時間くらいは寝れるんだけど残りの18時間は全部仕事と仕事場への移動時間という生活。しかも電車やロケバスの移動中とトイレの時以外は立ちっぱなし。もう人生で一番疲れた。でも人生で一番幸せな3ヶ月間でした。未経験の新人が最初にやるプロジェクトでshow-call(シーズン通しのフルタイムポジション)をオファーされるのは極めて珍しいことらしい。今までのフリーター生活で培った地味なスキルを高く評価されてもはや無双だった。The best PA ever(史上最強のPA)とか言われて他の子たちと比べて完全に特別扱いだったし。仕事においてここまでベタ褒めされたり熱烈に愛されたことがかつて無かったので最初からかわれてるのかと思った笑。ずいぶん遠回りしたけどやっと自分がいるべき場所が見つかったよ…。しかも人気コミックのドラマ化で、なんと『アベンジャーズ』のルッソ兄弟プロデュース!配給はアメリカのソニー・ピクチャーズ!!と最初からこんな大きい作品のために、第一線で活躍する一流のクルーと一緒に仕事することができて本当にラッキーでした。英語だけど予告編だけでも是非見てくれ〜


時は1987年。荒廃した街で未来も行き場もない若者たちが辿り着いたのは暗殺者育成学校、Kings Dominionだった。殺し合い、騙し合い、ドラッグにセックス、そして少しの友情…学園映画みたいに美しくなんかない、血まみれの青春をサバイブできるのは果たして誰か?  

現場でわたしたちがびしょ濡れ泥だらけで地道に手作りしたものがこんなかっこよく仕上がるなんてすごいぞ!この規模のドラマになると現場クルーだけで毎日120人くらいいる。いろんな部署のコラボレーションで作品が出来上がるのです。部署ごとにさながら部室みたいなトレーラーを持っていて、みんなで給食(無料)を食べて、夜中に出る夜食やコーヒーの屋台(無料)に並んで、○○部の誰と誰は実はデキてるらしいみたいな噂とかもあり、けっこう待ち時間が長いので延々だべったり、みんなで雨の中をうおーーーーっと走ったりとか、限りなく文化祭っぽかった。学園モノだから制服姿のキャストと大勢のエキストラがセットをうろうろしてて本当に学校みたい。キャストも腰が低くてフレンドリーな人ばっかりでクルーと一緒になってふざけてたね。長くPAをやってる子やベテランのクルーも「こんな仲良しな現場滅多にない」って言ってた。いまバンクーバーで撮ってるドラマや映画他にもいっぱいあるけど、すんごい険悪な雰囲気のところもあると聞くしなあ。

撮影のほとんどは郊外にある2つの巨大スタジオで行われた
室内をクレーン車が走れるくらい広い 。迷子注意
なんの変哲もないブルースクリーンでございます
セットに動物がいる日もあった
鶏、犬、ヤギ、アルパカなど
これはgrip部のマスコット犬アルピーくん。
カナダ人って普通に職場に犬を連れて来るよね
ダウンタウンでやった昼間のロケ
ロケはスタジオ撮影より緊張する
これもダウンタウンのロケ、たしか徹夜だった。
月明かりを演出するこの照明は…
こうしてヘリウムガスで浮くようになっているのです。
クレーンと使い分け。
精神病院の廃墟でのロケ。
撮影以外では入れない場所
もちろん火薬類取扱免許を持っている
特殊効果部の練習風景
笑っちゃうような豪雨の日も撮影決行
夕食にハンバーガーが出た数時間後に
夜食のハンバーガー屋台が来た奇跡の回
主演のベンの誕生日
楽屋トレーラーも風船だらけ。
最後にもらったプロダクションからの記念品、
校章入りスウェット上下
そういえば髪をピンクに染めたんですよ
ロケーション部飲み。
みんなハタチそこらだからめちゃくちゃ飲む
クラブを貸し切って盛大な打ち上げ
わたし含む数名酔っ払いすぎて追い出された笑

夢みたいに楽しかったな…シュン。毎日寝てる時以外ずっと一緒にいたこのメンバーが全く同じ組み合わせで集まることはもうないんだと思ったらすごくさみしい。まるで卒業みたい。わたしを「右腕」と呼んで大変かわいがってくれたボスが最後の日に「今までよくがんばってついてきてくれたね。I'm so proud of you. 君はこれからこの業界でどこまででも行けるよ」と言ってくれた。彼は6コも年下で、若いせいか少々だらしないところがあり最初はソリが合わなかったんだけど、いつからか親のような目線でわたしになるべくたくさんのことを経験させてくれようとしてくれるようになった。年下のくせにな!彼やそのまた上の大ボスも是非また一緒に仕事しようと言ってくれているし、他のPAとのコネクションもあるし、ユニオンのメンバー候補生にも認定されたので、今の部門で食いっぱぐれるということはないんじゃないかな。

例年12月から3月にかけては業界自体が「冬眠」に入ると言われているんだけど今年は繁忙期が来るのが遅かったためちょっと事情が違うかもしれないらしい。単発の仕事day-callを拾うこともできるんだけどしばらくゆっくりしようかと思って。クリスマスだしお正月だし。1月の終わりにボスが狙っている映画の仕事があるのでもしそれが決まればついていく予定。銀行員時代の2.5倍のお給料が出て、且つお金使う暇が全く無かったせいでまとまった貯金があるんだけど、旅行するかオンボロ中古車を買うかで悩んだ結果今回は車を取ることにした。業界でやっていくのにやっぱり車が不可欠すぎるので。この仕事を始めてライフスタイルががらっと変わった。まさか自分が車を運転することになるとか、仕事を好きになれるとか、お金の心配をしないで暮らせるようになるなんて3ヶ月前には想像もつかなかったことだもの。子供の頃からずっと戦ってきた「何者にもなれない」という不安とやっと決別する時が来たようだ。


Deadly ClassはアメリカSyFyチャンネルで1月16日から放映開始です。将来的に日本の動画配信サービスで視聴できるようになったりとかしたらいいんだけど。本当にがんばって作ったわたしたちの青春の結晶なので、多くの人に楽しんでもらえることを願っています。

…とこれを書き終わった瞬間にちょうどボスからメールきて1月の仕事がほぼ確定。なんというタイミング笑。もう少し休めるかと思ってたんだけど、呼ばれちゃしょうがねえ。止めるな、止まるな、let's keep it rolling. 

2018/09/16

Don't Dream it, Be it 夢を見るな、夢になれ

何度かメールでやりとりしていた知人の姉から一斉送信で「8月24日空いてる人?」とテキストが来た。「me!」と返信したらあっさり初仕事が決まった。面接とかはない。撮影前日の夜遅くに集合時間と住所が送られてきた。他にもFBのグループとかで常に仕事を探してるのだが、「明日来れる人募集」とかやたらとギリギリな求人が多い。


何の指示もなかったけど持ち物はネットで調べまくって事前に用意していた。わたしは平均的なカナダ人に比べると無口な方なので、ペラペラ営業トークができない分こういった小さいことで本気のやる気を見せていくしかない。腰につけるお道具ポーチには各種ペンとノート、十徳ナイフとライター、懐中電灯、ガムテープ、作業用手袋などを装備してある。仕事中は携帯電話は禁止なので腕時計も買った。服はカメラに写り込まないよう黒い服が好まれるみたいなので黒い防水ジャケットと黒いスキニーパンツを購入。わたしは喪服以外では絶対に黒を着ない主義なのですべてイチから揃えなければならない。初期投資ううう。モトがとれることを祈る。リュックの中には防寒具と替えの靴下と水筒、去年の確定申告の控え(Notice of Assessment 2017)と運転免許のコピー。映画の仕事はカナダで合法的に働けるビザさえあれば誰でもできるんだけど、ローカルの人間を雇うことを条件にBC州がプロダクションに補助金を出しているので、前年度の確定申告をBCで済ませていて今後も同州に住む予定という証明書とサインが必要になる。

当日は16時集合で明け方解散の徹夜のドラマロケだった。先に言っとくけどセットでは撮影厳禁なのでここからは文字ばっかですよ。指定された場所にだいぶ早めに着いたら白い巨大なバンがたくさん見えてまるで映画みたいだった。近くのスタッフに声をかけるとそこはまた別のドラマを撮っていた。高架下の空き地みたいなとこだったんだけど同じ日に3つ違う撮影をやっていたらしい。さすが「北のハリウッド」。なんとかアシスタントロケーションマネジャーの知人姉と合流し、とりあえず入り口を見張ってろと言われた。見たこともないようなでっかなトラックが次々とやってきて機材を搬入していく。PAの仕事の大半はこの「見張り役」で、わたしのようなチビが何を守れるのかよくわからないけど突っ立って見てろという指示が多かった。

2時間ほど突っ立ってたら代わりの人がやって来てブレックファストを済ませろと言われた(18時すぎ)。ごはんはめっちゃ豪華!ケータリングとコーヒーのトラックが来てアツアツの食事をオーダーできる。サラダや冷菜はバフェ形式になっていて、ケーキや山盛りのフルーツ、ジュースを生搾りできるコーナーも。もちろん全てタダ。誰もが寝不足の過酷な現場では意識的に栄養のあるものを摂らなければ身体が持たない。二回の大きな食事の合間にもスープや小さな丼ものやチキンなど随時ホットスナックが出て、さらにセルフサービスの軽食ステーションがある。役者もエキストラもスタッフも同じものを手があいた時に自由に飲食することができる。ていうかみんなどんだけお腹空いてるんだ、さっき食べたばっかだろ!笑

この日はわたしにとってのデビュー戦でもあったし、このドラマシリーズ自体の撮影初日でもあったのでみんなさぐりさぐり自己紹介していた。PAは蛍光色のベストを着ているので(黒い服が好まれるとは何だったのか)下っ端だとわかるはずなのに偉い人たちが「はじめまして、what's your name?」とわざわざ挨拶しにきてくれた。みんなすごーく優しい。PAの親分であるKey PAや知人姉もすれ違うたびに「大丈夫?楽しい?」と声をかけてくれた。「シーズンが終わる頃にはみんな家族さ」と言ってたけれど、わたしは今の所大きな撮影の時にだけ駆り出されるお助けPAなのでどれだけこの作品に関われるかはまだわからない。それでもメモをとって話した人の名前は全員覚えるようにした。フリーランスで成功できるかは人脈次第で、人脈づくりは今日からもう始まっている。

実際にキャストが入ってリハーサルが始まったのは22時ごろだった。24時間表記はカナダでは通常使われないけど、深夜に動く事も多いこの業界ではこれがスタンダード。ここからはセットの間近に配置されて面白かった。wakie talkie(トランシーバー)に耳を傾けてカメラが回ってる間にクルーをおとなしくさせるという役目。というのもトランシーバーは全員が身につけているわけではなく、また役職によってチャンネルが違うのでいつも情報が共有できているとは限らないのだ。超高性能のマイクは小さな雑音も拾ってショットを台無しにしてしまうので、「だるまさんがころんだ」状態で全員仕事をストップする必要がある。監督がカメラスタートの時にRolling, カットの時にCutと言うのがトランシーバーで聞こえたらそれぞれ大声でリピートしてみんなに知らせる。どちらも日本人のわたしには発音が難しくて、変だと思われるんじゃないかと萎縮してしまった。ネイティブスピーカーの大衆の前で大きな声でゆっくり正しくゥローリンと発音できる自信のあるものだけがわたしに石を投げなさい(泣)。ま、そのうち慣れたっていうか開き直ったけど。場面の転換の間にはホットスナックを配って歩いたりゴミを拾ったりゴミ箱を空にしたり雑用をこなす。

PAの仕事はだから①見張り②ローリンと叫ぶ③ゴミ捨て④テント設営など雑用一般、こんなもん。あともう一つがlock upといってロケの時に一般の通行人を閉め出す、である。26時頃に最初のセットからシャトルバスでドナドナされてダウンタウンに向かった。よりによって治安の悪いHastingとCambieのところ!一帯を封鎖してバイクのスタントを撮るという。白バイの警察がたくさん出動してライトをピカピカさせていてめっちゃワクワクした。彼らが車を止めてわたしたちPAは歩行者を止める。金曜夜のHasting stは思ったよりも危険な人はいなかったけど酔っぱらいが多かった。捌ききれるか心配だったけど周りに他のスタッフも警察もいたのでちょっかいを出されることもなかった。ふう。野次馬に「何撮ってるの?誰か芸能人いる?」とか聞かれたけどまだ秘密のプロジェクトのため偽のつまんなそうなタイトルで撮っている。主演女優はこないだ某マーベル映画に出てた若手のアジア人の子。大型トレーラーに牽引されたバイクに跨って彼女が現れた時はかっこよくて鳥肌が立った。

そう長く交通をストップするわけにもいかないので撮影自体はあっという間だった。80年代のサンフランシスコという設定で撮っているので大道具のアメ車のナンバーも全てカルフォルニア。クルーが撤収準備をしている間にこれをしばらく見張る。同じく今日が初日というPAの女の子とずっと一緒にいて楽しかった。サーカスと呼ばれるベースキャンプがある元の会場にまたシャトルで戻り撤収手伝い。すべて終わった頃には時刻は28時をまわっていた。お疲れ様でした。知人姉が「楽しかったでしょ?わたしはこの仕事が大好き。超キツイけど大好きなのよ。I fucking love it!!」と熱っぽく語っていた。完全フリーランスなのでまた呼んでもらえるかの保証はないけど、帰り際に「来週は木曜か金曜かその両方に来てもらうからね」とサラっと言われて安心。まだ始発電車が走ってなかったのでKey PAが車でうちの彼の家まで送ってくれた。やっぱ車あったほうがいいよな…。運転練習しよ。

PAは飲食時も含め絶対に座ってはならないという体育会系のルールがあるので(カナダではこういうのものすごく珍しい)、脚も腰もバキバキに痛い。すでに秋の気配のバンクーバーの夜は冷えた。明け方バスタブに湯を張って長い一日の出来事を思い出してみてもまるで夢の中にいたようで実感がなかった。この物語は来年テレビで放映されれば永遠に語り継がれ誰かの心の中に生き続ける。わたしはたしかに物語の誕生に立ち会った。

おニューの靴が泥まみれ。


【追記】この日記を書き始めてから怒涛の忙しさでずいぶん時間が経ってしまった。同じドラマの現場を中心に、合間に別件のCMもやらせてもらって順調順調。あまりにも濃い毎日。一週間でファストフード時代の月収以上を稼いだ。遠くまで来たもんだ。