バンクーバー在住6年目、世界を股にかけるフリーターちひろうさぎの日記と映画レビュー。

2015/03/03

It's (officially) over 元カレ結婚の衝撃

桜の咲き始めた季節のうららかな午後、SNSのタイムラインをチェックしていると不意に頭をガツンと殴られるようなショックが襲った。タキシードを着て花嫁の隣で笑っているのはどう見てもわたしが18歳から6年間に渡って交際したかつての恋人であった。アップロードした主らやコメントを残している面子から見ても彼に間違いなさそうだ。目の前が真っ暗になった。住宅街の路地裏の水道工事の音だけが響いていた。


4月、新歓シーズンの大学の狂騒がまるで昨日のことのように感じられる。夏休みまでが一番にぎやかで、夏が終わると授業に出ない者が増える。大学祭のときにはまた爆発的に人が増え見たことも無い人種が沸き、受験シーズンには休講で人っ子一人いなくなり、そしてまた春がくる…というように大学の一年は潮の満ち引きのようだ。彼と出会ったのは写真部の新歓コンパだった。3年生の彼は当時アフロヘアにしていてかなり目立っていた上に、酔って突拍子もないタイミングで花柄のパンタロンを足首まで下ろしていた。その時は話す機会を失ったけど、後日目が合ったとたんにお互い名前も知らないままキスをした。旧校舎、建て壊されたんだってね。

彼を好きになった直接のきっかけは彼の書いたmixi日記(笑)だった。彼はプロのライターになるべきだと今も思う。彼の本棚を見て納得、大変な読書家で、アンダーグラウンドなバイトをして、一流の大人にかわいがられ、野心もあった。映画館も美術館もおいしいお店も彼と一緒だとまるで初めてコンタクトレンズをつけた日のようにクリアに見えた。大学は一年間休学したから一年余分に一緒に通えたんだよね。だけど卒業したら彼は髪を切ってひげを剃って普通のサラリーマンになった。この世で一番才能がある彼がサラリーマンになったことが悔しかったし、自分がサラリーマンの彼女であることも恥ずかしいと思った。彼は転勤してからも週末になると必ず往復4時間かけて東京に会いにきてくれたけど、わたしは絶対に彼の転勤先に遊びには行かなかった。週に一回のサラリーマンの恋人では満足できず、毎晩三宿あたりでクリエイター系の男の子たちと遊んでいた。彼も多分知っていたと思う。でも彼はなにも言わずに毎週中華料理をおごってくれた。2つだけ年上の彼は父親が娘を愛するようにわたしを愛してくれた。わたしは実の父親の顔を知らない。

最後に会ったのは2011年のクリスマスの夜だった。シネクイントで『宇宙人ポール』を観て、夕方には彼は2時間かけて郊外の社宅に帰る予定で、わたしはパーティにお呼ばれしていた。デートの時にはおしゃれしないわたしが夜遊びのためにドレスアップしていたのに彼はかなり不服な様子で、わたしはそう指摘されるまで気づきもしなかった。その日全ての話題はネガティブに転び、半べそのままクリスマス会に出向き、いつも通り明け方にタクシーに乗って有名な男の子の家で寝た。恋人とはそれが最後で以後一度も連絡を取っていない。年が明けてすぐわたしは何も言わずに勝手にカナダへと旅立った。6年間の結末がこれでした。

6年間、いつもいつも一緒だった。パステルカラーの思い出たち。彼は写真も上手だった。彼が撮った写真は全て実家に置いてきて、その実家にはもう戻れないんだ。神様、この記憶だけは無くさないでください。


彼と二人でとにかくたくさん映画を観た。最初は競争するつもりだったのに、彼はいつのまにかわたしを追い越してものすごいシネフィルになった。毎日毎日、日に最低でも4本くらいは観てたんじゃないかな。オールナイトの映画祭にもよく一緒に行った。思い出の名画座はもうほとんど無くなっちゃったと聞いた。彼のお気に入りは『七人の侍』『ミッドナイト・クロス』『暴力脱獄』『ゴッド・ファーザー』に『ファイトクラブ』と典型的な男の子映画。でも『アニーホール』や『チェイシング・エイミー』、『エターナル・サンシャイン』『ブルーバレンタイン』とか観て真剣恋愛しゃべり場にも付き合ってくれたね。(わたしたちはバリバリの町山信者だったのだ) お嫁さんは映画好きなのかな?一緒に観たのかな?わたしは全部、新しい彼と観なおして朝まで話をしたよ。彼といつまで一緒にいられるかわからないけれど。

あの頃は自分自身にも、彼の隣にも別の人がいる未来なんて想像もできなかった。一度は世界は二人のものだったんだもの。

あれから本当にいろいろなことがあったよ。もしも、もしもだけど君と結婚していたとしたら知らなくて済んだはずの苦労が山ほどあった。それを乗り越えたわたしはもう君が知ってるわたしとは違うのかもしれない。「何かいい事起こらないかな」と言えば「いい事しか起こらないよ」と即答してくれた君。今度の転勤で海外に行くんだってね。ありがとうも、ごめんねも、自慢したい話ももう二度と伝えるすべはないけれど、これからもわたしは同じ空の下、君が買ってくれた度のきつい眼鏡ごしの世界を生きていくから。


追伸
借りたままの若松孝二のサイン本はもう時効でわたしのものだ。バンクーバーの本棚に飾ってあります

2 件のコメント:

Shiori N さんのコメント...

たまに遊びに来てました!chihirousagiさんの文章スキです。
勝手に自分に重ねて読んで、どうしようもなく切なくなっちゃいました。世界一幸せになって欲しいけど、近況は一切知りたくないので色々知らないようブロックしてますが。笑
また遊びに来させて下さい♪

Hiromi Yamane さんのコメント...

久々に覗いたら更新あってうれしかった!
と思ったら切ないはなしでした。泣ける